水脈を求めて 9
その後、先ほど食堂で酒を飲み愚痴をこぼしていた村人達は、カールとの件で居心地悪くなり一旦は店を出たが、まだ今夜は飲み足りなかったのか数人で集まり、家で飲み直す事になった。
「なあ、さっきのカールの話だけどよぉ……」
やはり先程のカールの言葉とロッティの母親の態度が気になっていたのか、一人がそう切り出すと、他の者達も話に乗ってきた。
「ああ……。まさかあの子がまだ何か村に関わっているんじゃ……」
「でも、確かルルは今、村の長の知り合いの家に下宿してるって……」
ルルが森で暮らしている事は伏せられており、村の長達は皆にはそのように説明したために今は別の村に住んでいると思い込んでいたのである。
身の上を考えると自分達とて思うところは多いにあるが、けれど彼等にとっては儀式を失敗させ、村を掻き乱した少女としても映っている。そんなルルを、村の長や村人の中心人物達が、何故あんなにまで庇っているのかが分からなかった。
失敗は村の存続の危機にも関わっていたかもしれないのだ。
それなのに、これではあまりにもえこひいきではないのだろうか……そんなふうに考えると、少女をこころよく思わない気持ちが段々と膨れ上がってくる。
そもそもルルが雨乞いの儀式を失敗さえしなければ、あるかどうかも分からないような水脈を求めて、今ひとつ現実味もない水路事業などという、途方もない事を始めなくてもすんだのだ。
まてよ……。
儀式の失敗と同時に発表された水路事業。
そうだ。よく考えてみれば、これはあまりにもタイミングが良すぎるのではないだろうか。
もしかして、以前から裏で王都の奴等と繋がっていたのではないか?
水路事業を強引に受け入れさせるために……。
「そういえば……。ここ最近、王都のほらジョージさんに水脈の事とかこれからの事を、酒でも飲みながら、もっと腹を割って話そうと思って、誘いに行ったんだけど留守にしているんだ」
「王都に報告に行ってたりして、忙しんじゃ……」
「最初はそう思って、ならかわりに、最初に水路事業の話を持ってきた、あの警備隊のアランさんとルーカスさんを誘いにいったんだけども、やっぱりすれ違いばかりで……。どうも三人ともここのところ夜に村にいない日が多いみたいで」
「そりゃ、おかしいな。どこか行くっつっても村の周りは何もないし。酒が飲めるっていったら食堂だけだし」
「怪しいな……。毎日夜どこに行ってるんだろうな?」
「それで、さっきのカールが口走っていた言葉だよ」
「……」
「……」
その夜、数人の村人達の心に、更なる疑心が積もっていったのだった。




