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両親との記憶 2




 ルルの両親は、二人ともルグミール村で薬師をしていた。


 ある年の暮れに、村が原因不明の流行り病に襲われた。


 田舎の村に医者がそうそう常駐(じょうちゅう)しているはずもなく、例え呼びに行ったところで流行り病が蔓延(まんえん)している場所に来てくれるとは思えなかった。

 そうこうしているうちに、村人が次々に倒れあっという間に村は深刻な事態に陥ってしまった。


 しかし、そんな中でもルルの両親は諦めることなく、薬師として出来る限りの手を尽くし懸命の治療にあたった。

 残念ながら、数人の高齢者は命を落としてしまったが、両親の奮闘のおかげで甚大な被害が出る前に、病は終息に向かっていった。


 しかし、この時は最後まで病の原因には、辿りつく事は出来なかったのである。


 そしてその直後、昼夜問わずの治療で疲労がたたったのか、父がよりにもよって終息に向かっていたはずの、その病に倒れたのである。


 懸命に看病する母を、子どもながらに手伝うルル。

 けれど、父の容態はなかなか快方には向かわなかった。


 大好きな父に忍び寄る死の気配を感じながらの生活は、子どものルルにとっても、とても辛く、暗い日々だった。

 そんなある日、母と交替し看病をしていたルルに父が声を掛けた。


「ルル、そんなに暗い顔をしないで。そばには、いてやれないかもしれないけれど……いつでもルルを見守っているから大丈夫だよ」


「いや! ずっと父さまと一緒にいるんだもん。いっしょ、だもん……」


 父の寝ている布団にぎゅっとしがみつき、必至で涙を堪えながら言い募る娘に、父は優しく語りかけた。


「ルル……ごめんな。でもずっと愛してるよ。そうだ、今日は一緒に寝ようか」


 父からの提案に、パッと顔を上げる。

 いつも親子3人で寝ていたが、父が病に倒れてから、体に触るからとずっと我慢して離れて寝ていたのだ。


「ほんと?」


「ああ、本当だとも。だけど心配するといけないから、母さまには内緒だよ。だから、約束して。父さまの分まで、明るく元気に生きるって。さあ、指切りだ」


 その約束の意味を考えると、胸がぎゅっと苦しくなった。

 けれど、今のルルには父と一緒に眠れる嬉しさが強かった。


「うん。約束する。父さまの分まで、母さまと元気に生きる。指切り!」


「ルルは良い子だね。おっと……」


 父と小指を絡ませるやいなや、ルルは父のベッドに潜り込んだ。

 本当は抱きついて眠りたかったが、それは父の体に負担を掛けるかもしれないと思い、父の手を頬にすり寄せる。


「まだまだ、甘えん坊だね」


「今日は、特別だもん」


「そうだね、今日は特別だよ。おやすみルル。愛しているよ」


「私も愛してる。おやすみなさい、父さま」


 父がいつものようにおでこに「おやすみのキス」をしてくれた。

 ルルは嬉しさを噛み締めながらも、心の何処かで、これが最期になるかもしれないと思うと……何度も、何度も父とのひとときを心に刻みつけていた。




 それから数日後、父は天国へと旅立ってしまった……。


 その時の母の悲しみは計り知れないほどだった。

 いつも明るく元気の塊のような母が激しく泣いた姿を見たのは、これが初めてだった。


 けれど、母も父となにかしら約束をしていたのか、父の葬儀が終わると、ルルの前ではいつも通りに振舞っていた。

 だから、ルルも父の指切りを胸に、これから母と助け合いながら、生きて行こうと子どもながらに決意した。



 それなのに……今度は母も、同じ病に倒れてしまったのだった。





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