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待ち望んでいたもの 2



 森の入口で迎えを待っていたルーカスも、突然の雨に驚きを隠せなかった。


 しかし、時期外れの雨を不思議に思ったものの、ルーカスもまたルルと同じように安堵した気持ちのほうが大きかった。


 水路自体は着々と進んでいるが肝心の水源が見つからず、工事にあたる村人達の最初の盛り上がりは徐々に小さくなり、一度落ちてしまった士気はなかなか上がらなかったのだ。


 けれど、この雨でそういった不安も少しは払拭されるだろうと、そう考えていた。


 雨足は次第に強くなり、黒い雲からはくぐもった不穏な音が聞こえ始めていた。

 まだ、遠く様子ではあるがこれから段々近づいてくるのだろう。

 その前に、森の家に辿り着きたいと考えていたが、今日はずいぶん迎えが遅いなと思っていた。いつもは入口についたと思ったら、ルルかヴィリーがひょっこり顔を出して迎えに来てくれていたのだ。


 しかし、今日はしばらく待っているが、一向に気配がしない。

 もしかして、突然の雨で何かあったのではないかと、ふと心配になったルーカスは、ずいぶん迷ったものの一人で森に入る覚悟をした。


 これまで何度も訪れてきたのだ、ほんの少しは道にも慣れているはずだ。

 無理をするつもりはないし、もしルルかヴィリーが迎えに来てくれている途中だとしたら、きっと自分の事を見つけてくれるはずだと、そう考えながら森へと踏み入ると、慎重に目的の家を目指した。


 しかし、ほんの数メートル歩いた所で、一度通り過ぎたが視界の端に不自然に「何か」が盛り上がっている光景が映った。

 一瞬の事だったがルーカスはふと立ち止まり、茂みの間に目を凝らすと、そこにはうずくまって地面に伏しているルルがいた。


 驚いたルーカスは慌ててルルの元に駆け寄る。

 ルルは自分の両耳を手でぎゅっと抑えつけ、雨に晒されているのも構わず、ずぶ濡れの状態だった。


「ルルちゃん、大丈夫? 具合悪いの? それとも怪我でもした?」


 ルーカスが問いかけても、ルルは耳を抑え「うぅ……」と呻くだけで、心配する声も届いていない様だった。

 とにかく、濡れたままでいるのは良くないし、空の轟音も感覚が狭くなっている事にこのまま外にいるのは危険だと判断したルーカスは、ルルをひょいと抱き上げて、とりあえず彼女の家へと急ぐ事に決めた。


 突然の浮遊感に一瞬驚いたルルだが、ゴロゴロという音を聞くやいなやすぐに耳を塞いで、ルーカスと判断出来ているかどうかは分からないが、自分を包んでくれた温かい何かに顔を埋める。


 少しは森にも慣れたと思ったルーカスだったが、数メートル先で早くも道に迷う。

 どちらへ行くべきか戸惑いながら、段々と焦りが滲み出て来はじめたその時、ルーカスの胸にうずくまるルルが呻くように言葉を発した。


「右斜め……」


 その言葉にはっとしたルーカスは、ルルの言う通りに右斜めに進む。すると30歩くらい歩いたところで、顔は伏せたままのルルがまた指示を出す。


「左に……ちょっと」


「そこを真っ直ぐ」


 見えてないはずなのだが、ひとまずルルの指示通り歩くと、あっという間に目的の家に着いた。


 色々不思議には思ったものの、それは今のところ後回しにして、まずは急いでずぶ濡れのルルを家に運び入れたルーカスだった。



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