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待ち望んでいたもの 1



 王都から帰ってきて10日間ほどが過ぎた。


 森に戻ってからは、一度も体調を崩すこともなくルルは元気に過ごせていた。

 その日も、いつものように夜明けと同時に目を覚ますと、朝の仕事に取り掛かる。しかし、どことなく普段とは少し違う森の空気の匂いを感じ取っていたルルは、度々辺りを見回しては首を傾げていた。


 けれど、特に変わった様子はない。いつものように森は穏やかで……、そういえば小鳥達のさえずりが今日は少なく、やけに静かなような気もする。


 しかし、いつまでも気にしていても仕方がないと用事を片付けていく。今日は、このあとルーカスを迎えに、森の入り口に向かうことになっていた。


 先日届いた訪問を知らせる手紙には、ルーカスの祖母の店に卸している薬について聞きたい事があると書いていあった。ちなみに、アランは報告で王都に行くことになっているらしく、今日は珍しくルーカス一人でルルの家に来ることになっていた。


 ここ最近は、お迎えはほとんどヴィリーに任せていたので、今日も頼もうかなと思ったのだが、肝心のヴィリーは珍しく朝からどこかまどろんでいる様子だった。


「ヴィリー? 今日ルーカス様のお迎えを頼みたいんだけど……、ヴィリー? どうしたの?」


 もしかして、どこか具合が悪いのかと思って、様子を診てみたが特にそういったところは見られなかった。そんなヴィリーの頭を撫でながらルルが再度呼びかけてみると、耳だけ反応はさせるものの、何だかとても面倒くさそうな感じで起き上がる事はなかった。

 体調が……というよりは、とにかく眠むたいからしばらく放おってくれと言っているような気がした。


「ヴィリー、眠いの? じゃあ、今日は私がお迎えに行ってくるからね。ゆっくりしててね」


 いつも森の生活で、何かとルルを助けてくれているヴィリーだ。

 たまには、ゆっくりしたい時もあるのだろう。今日はヴィリーをたっぷり休ませてあげようとルルはそう語りかけると、ヴィリーにブランケットを掛けてやったのだった。


 そんな事情で、今日はルルがルーカスのお迎えに行くことにして、朝の仕事を手早く済ませたのだった。

 ただ、その途中にもやっぱりいつもと違う空気の匂いに、ほんの少し心細くなったルルは、森の入口に向かう歩みを早めた。


 すると、さっきまで木漏れ日が差し込んでいて、明るかった森の中がさっと陰った。

 急に暗くなった森は、あっという間に寒くなったような感じがした。


 すると、パタパタといくつか木々の葉が鳴り響いた。

 何の音かと考える間もなく、あっという間に辺りはその音に飲み込まれていった。


 やがて、音の正体は生い茂る葉を伝って、ルルの鼻の頭にポツリ、頬にポツリと落ちてきた。


 ――そんな、まさか、これって……。


「あ、め……?」


 雫がルルの肌をツーと伝って流れ落ちた。

 あたり一面から土の匂いがむっと立ちのぼり、ルルはやっとその正体に気がついた。


 突然の出来事に、驚愕するルル。

 しかし、それは間違いなく雨だった。


 ――やっと……、やっと降ってくれた。


 ルグミール村の皆が待ち望んでいたもの。


 そして、ルルもまたこの時を、どんなに待っていたことか……。


 救援物資等でルグミール村の危機は脱したものの、あれから、一滴の雨も降っていなかったからだ。


 水路事業が始まったとはいえ、水源の発見にはいまだいたらず、村の雰囲気は芳しくない状況だとロッティやニコルからの手紙で知っていた。

 ただ、それは決してルルのせいではないと何度も書かれていたが、けれど「もしも」が頭から離れることはなかった。


 自分が助かった事で、雨乞いの儀式が失敗したという結果に違いはなかった。雨が降らない状態が続いていたのを、ルルは心の何処かで常に気に病んでいたのだ。


 けれど、ついに雨が降ってくれたのだ。


 これでほんの少しは村の人達の気持ちも和らぐかもしれない。

 それを心の底から、良かったと思うルルだった。


 しばらくその場で、ただ呆然と突っ立って、雨に打たれていたルルだったが、森の入口で待っているであろうルーカスの事を思い出す。


 この雨で濡れているかもしれない、早く迎えに行かなくてはと再び駆け出した。


 それにしても、不思議だった。


 ――雨季がとっくに過ぎた今になって、どうして急に?


 時期外れにも程がある突然の雨。

 ルルは走りながらもそんな事を考えていると、薄暗かった森にぱっと光が走った。


 一瞬の間、空が不気味な唸りを上げたのだった。



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