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森に帰る



 体調が優れない状態で馬車に揺られ、少し気分が悪くなってしまったものの、やがて見慣れた風景に差し掛かると、ルルの体調は徐々に回復していった。


 医者に貰った薬のお陰もあるだろうが、やはり慣れ親しんだ森に近づいているという安堵感が何よりも効いたのか、森の入り口へ付いたころには、自力で立てるようになっていた。


 そして、森へ一歩足を踏み入れると、体の奥から何かが湧き上がるような感覚がした。


 何だろう……。

 森全体の息吹というか、大きな力で押し上げられるような、一歩進むたびに力が湧いてくる。


 そして、やっと我が家に辿り着くと、ヴィリーが家の前でルルの帰りを待っていた。

 昨日お別れの挨拶をした場所に、寸分違わず鎮座しているようなヴィリーの様子は、あれから一歩も動いていないかのようにも思えるほどだった。


 たった一日離れていただけなのに、随分懐かしい気がした。


「ヴィリー!」


 ルルが手を広げて大きな声で呼ぶと、なかば銅像のように佇んでいたヴィリーは一転、勢いよくルルの腕に飛び込んできた。

 その反動で、ルルは尻もちをついてしまったが、構うこと無くヴィリーを撫で回す。たった一日ぶりの再会だと言うのに、これでもかとじゃれつくルルとヴィリー。


「ただいま」


 ルルの言葉に、ヴィリーが一つ吠えた。

 まるで「おかえり」と言っているかのようだった。


 そんなルルの様子を見て、随分心配したが体調の方はもう大丈夫そうだと、ほっと胸をなでおろすルーカスとアランであった。



 ルル自身も王都での体調不良が、嘘のように感じるほどの回復を実感していた。

 しかし、それでも疲れがぶり返してはいけないと、ルーカスとアランに急かされるように、ベッドへ押し込まれた。


 もう大丈夫だと言ったが、二人があまりにも心配するので、今日はこのまま大人しく横に事にした。

 それでも、まだ心配が尽きないのか、二人ともここに泊まると言い出したので、ルルは慌てた。

 王都の行き来は慣れているかもしれないけれど、今回はルルを伴ってのいつもとは違った旅路で、しかも帰りは体調不良を起こしてとても迷惑をかけてしまった。

 ルーカスとアランといえども、いつもより気を配った分、やはり疲れているはずなのだ。


 それに、二人は明日も仕事があるのだ。

 ルグミール村の滞在先でゆっくりして欲しい旨を伝えると、二人ともだいぶ渋っていたが、何だかんだと意志の強いルルには勝てないのである。

 だから、最終的にはルルの願いを聞き届け、二人が折れる事になった。


「俺達、ルルちゃんには逆らえないのかも……」


 ルーカスが苦笑いすると、アランも「全くだ……」とため息混じりに同意した。ルルと出会って数ヶ月だが、彼女が相当な頑固者だという事が分かってきた二人だった。


「じゃあ、今夜はちゃんと眠るんだよ。ルルちゃん」


「ヴィリー、ルルに何かあったら知らせに来てくれ。お前なら村人達にも気づかれずに俺達の所へ来れるだろう?」


 アランがそう言うと、当然と言った感じでヴィリーが吠える。


「ヴィリーは、ホントに賢いな〜。それに比べて王都でのアランと来たら……。やっぱりヴィリーの代わりは十年早かったみたいだ」


 ライアンとの一連の出来事を思い出してしみじみと語りながらヴィリーを撫でるルーカス。アランも言い返したかったが事実なのでぐっとこらえた。


「ルル、また明日の朝、仕事が始まる前には様子を見に来るからな」


「色々とご迷惑かけてすみませんでした。アラン様」

「ルルちゃん、くれぐれも無理をしないように」


「はい、心配かけてごめんなさい。ルーカス様」


「じゃ、またね。ルルちゃん」


「またな、ルル」


「はい。お二人とも、また明日……」


 当たり前のように交わされるようになった言葉だが、ルルはその都度、嬉しくなる。

 そんなルルの表情に安心して二人は、ヴィリーの案内で森の家をあとにした。



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