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急変 2



 それから、しばらくして店主が一人の医者を連れてきたのだが……。


 全身が枯れ木のようにやせ細っており、足取りはおぼつかないのかよたよたとしていた。その風貌に、一抹の不安がよぎるアランとルーカス。

 しかも、その医者はルルの顔を見るやいなや、にんまりと怪しげに笑った。


「おお……、これは、なかなかめんこい嬢ちゃんだねぇ、えぇへっへ〜。いや最近年寄りばかりの診察で、張りがなくてのう」


 とんでもなく不謹慎な言葉を口走る医者である。


「さぁて、お嬢ちゃんの胸の音、さっそく聞かせてもらおうかの」


 指をくねらせ、いやらしい手つきで、少女へと近づこうとしたその時、アランが医者の肩をガッと掴んで、引き戻した。


「痛てて……! な、何をする!? 診察が出来ないではないか」


「ふざけるな。お前のような変態に、ルルを触れさせるわけないだろう」


「ち、ちょっと、場の雰囲気を和ませてやろうとしただけじゃ……。すまん、すまん。ほら、早く嬢ちゃんを診てやらんとだめじゃろ?」


「そ、それは……」


 そう言われるとさすがのアランも一瞬、医者の肩を掴んでいた力が弱まる。

 すると、また「えぇへっへ〜」と、下卑た笑いに、いやらしい手つきでルルに向き直る。


「ちょっと、待て!」


 凝りもせず、周りをおちょくるような医者の態度に、今度はルーカスが止めた。正直、押し問答している場合ではない。あいにく今は女手はない状況に、ならばと逡巡した結果、意外な人物に白羽の矢を立てた。


「ライアン、ルルに聴診器は当てるのはお前がやってくれ」


「おいっ、ルーカス!」


「アラン、揉めている時間はない。体は男だが心は乙女のライアンと、枯れてはいるが変態のこの医者とどっちがいい?」


「……よし、ライアンやれ。くれぐれも、な!」


「分かったわ。任せておいて」


 こうして、医者の両腕はアランとルーカスにがっちりと拘束され、耳で胸の音だけを効く状態で、聴診器の先を直接ルルの胸に当てるのはライアンが担当することになった。

 彼(?)は医者ではないが、医療の知識があるというルーカスの判断であったが、実はライアンを選んだのには、もう一つ理由があった。


 ルーカスが真剣な眼差しでライアンを見つめる。その視線に何かを感じ取ったライアンは、薄手のタオルを被せてルルの服のボタンを外しにかかった。


「じゃあ、ルル。服を少しはだけるわね。当てたとき、ちょっと冷やりとするかもしれないけれど、大丈夫だから」


 そう言いながら慎重に、聴診器を差し込む。

 正直、胸に火傷に対してはルーカスのあの1回だけで精一杯だったので、やはり抵抗感はあったが、肩で息をするぐらい体がしんどいというのもあり、短い間だがライアンの人柄に安心したのか、ルルは目立った抵抗をみせることはなかった。


 それでも最初は条件反射のように体が強張ってしまった。ライアンもそんなルルの様子をうかがいながら、慎重な手つきで聴診器を当てていったのだった。


「ふ〜む、特に胸の音におかしいところはないのう」


 胸の音を聞き終えると、あとは流石に仕方ないと判断して、拘束を解かれた医者がルルの脈を診たり、額に手を当てながら診察を進める。


「こんなに息を荒げておるのに、熱もないし、喉も腫れておらん。脈にもさほど乱れがないのう……。うぅむ……王都へは初めてと聞いたが、環境が変って、人混みに疲れたのかもしれん。この薬を飲んで、しばらくゆっくりすれば回復すると思うが……」


 ひと通り診てみたが、体調不良なのが不思議なくらい異常は見当たらなかった。


「じゃあ、ルルちゃんをこのまましばらく休ませてもらうように頼んでくる」


「そうだな。何ならもう一晩ゆっくりここに泊まって……」


 医者のその見立てに対してアランとルーカスは、大事をとってこのままこの宿で、もう一泊して回復してから帰途につくように相談を始めた。


 しかし、そんな二人をよそに、ルルがふいにぽつんと呟いた。


「帰りたい……森に」



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