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噂のあの人 9



 賑やかな食事も終わり、そろそろといった時だった。


「あぁん! もう、ルルとお別れなんて寂しいわ。そうだ、今日はこのままルルと一緒の部屋に泊っちゃおうかしら?」


「え!? 本当ですか」


「ダメだ!」


「ダメに決まってるだろう!」


 ライアンの言葉にルルは驚きつつも喜んだのだが、アランとルーカスに即座に却下されて、思わずしょんぼりとした表情を浮かべてしまう。


 少女にそんな顔をさせるまでの存在に登りつめたライアン……。

 アランとルーカスにとっては実に深刻な問題である。


「あ、あのね、ルルちゃん。ライアンは、心は乙女かもしれないけれど、体は男性だから……。もし万が一、目覚めたり何かしたらルルちゃんがとっても危険な目に合うからね」


 ライアンに対してちっとも警戒心を抱かないルルに、ルーカスは諭すように言い聞かせる。しかし、肝心のルルにはあまりうまく伝わっていないのか、なおも残念そうな顔をしたままだった。


「ちょっと、ルーカス! 何よその言い方〜。ルルみたいなお子様に手なんか出さないわよ。でも、何て言うのかしら、こう……ルルを見てると庇護欲を掻き立てられちゃうわね〜。うふふ、可愛い」


 ライアンが色っぽく微笑むと、自身のごついその指で少女の顔の輪郭を撫でる。

 その瞬間、アランの拳がテーブルの影になっていてルルからは見えない位置にあるライアンの横っ腹にめり込むと同時に、ルーカスがサッとルルを自分の背中に隠す。


「うっ!? ……な、なによぉ〜、勘違いしないでよ! そういうんじゃないんだから。二人ともルルの事になると、ちょっと大人げなさすぎるわねぇ……」


「お前は黙ってろ!」


 アランが一喝する。


「ルルちゃん、大丈夫だった? 穢れちゃうからライアンに触られた部分、よく拭いておこうね」


「失礼ね!」


 ライアンに触れられた部分を、ごしごしとおしぼりで入念に拭くルーカスの言い草に、ライアンは思わず声を上げた。


「あ、あの、ルーカス様。せっかくのお化粧がとれちゃいます……」


「大丈夫。ルルちゃんはお化粧なんかしなくても、素顔のままで充分素敵な女の子だよ」


「っ!」


 さらりとそんな言葉を告げられて、ルルの顔が急に顔が熱くなる。


「ああ、頬もこんなに赤くなって……かぶれたりしたら、お前のせいだからなライアン!」


「違うわよ! 今のはルーカスのせいでしょ!? そもそも、最初から言ってるでしょ? ルルみたいなお子さまより、アタシは大人の色香が漂うアランが好みなのよ!」


「ぶっ!」


 とばっちりを受けたアランが思わずむせる。食事をしている間にも、嫌というほど注目を浴びていたルル達一行。

 ライアンのどさくさに紛れた告白でまたもや王都の淑女達の間で、あらぬ噂が飛び交うのかと思うと、頭の痛いアランであった。


「ふふっ、ライアン様はとってもアラン様が好きなんですね」


「……」


 無自覚に追い討ちをかけるルル。

 少女の目には、二人は非常に仲の良い友達として映っていたので素直にそう口にしたのだが、これには流石のルーカスもアランを不憫に思った。


 正直、仲良くなんかこれっぽっちもないので、アランとしてもすぐに訂正したかったが、きっとその話にも必ずライアンが絡んでくるだろう。

 そうなると、にこにことしているルルの前でライアンと言い争いをするのは、今の立場からして悲しいかな、アランの方が分が悪いのはあきらかだった。

 非常に納得がいかないが、出掛かった言葉を何とか飲み込むという懸命な判断を下すアランだった。



 一騒動あったものの、さすがにこれ以上遅くなるといけないからと、ルルを宿に送る事になったルーカス。

 本当はアランがそうしたいのがやまやまだが、ライアンをおさえておくために泣く泣く諦め、ライアンの酒に付き合う事にした。しかしその陰で、ルルを送ったあと必ずここに戻ってこいと、ルーカスに何度も念を押す。

 このままライアンと二人っきりなど死んでも御免だ。



「何かさぁ……。ほんっとに、ルルって良い子よねぇ〜」


「当然だ」


 ルルとの別れの挨拶を済ませ店から出る姿を見送ったライアンは、不意にそんな事を言った。


「即答ね、妬けちゃう〜。……でも、良い子過ぎてそこがちょっと心配だわ」


「……確かに」


「あとさぁ〜、ルーカスがさぁ、いつもと違うのよね……。あの事があってからどこか人と距離を置くようになってたけれど、ルルにはあんなに過保護になって……」


 いつものやりたい放題で騒いでいただけのライアンの思わぬ観察眼に、アランが驚いていると彼(?)はニヤリと笑った。


「あら、アタシこういうの鋭いのよ」


 でも、だからこそライアンは心配していた。


「ルルが泣く姿は、見たくないわね……」


「……」


 アランからの返事がない事に、彼も自分と同じような心配をしていると感じた。


 ライアンの目から見ても、以前のルーカスと今日のルルに接する彼の姿との違いは歴然だった。

 ルルを思いやり、あれほどの優しさを注いでいる……。

 ルーカスを心配していた者にとっては、それはとても喜ばしい光景ではあるのだが……。


 けれど、優しいからこそルーカスはいまだあの出来事に囚われたままなのだ。


 その優しさがいつかルルを傷つける事になるのではないかと、ライアンはこんな自分にも何の偏見もなく慕ってくれた、あの健気で心根の優しい少女を案じるのであった。



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