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噂のあの人 8



 食堂についてからも、ずっとライアンの調子に巻き込まれていた。


「なぁに、ルル? さっきからウサギみたいに、お野菜ばっかり。美容には良いけど、お肉も食べないと、育つところが育たないわよ」


「そ、そうなんですか?」


 そんな事はない。今のままでも充分に魅力的だと、心のなかで断言するルーカスとアラン。

 しかし、それを聞いて少し深刻そうな表情をしたルルに、ライアンは自身が頼んだ料理を切り分けると、少女の皿にドデンと肉の塊をおいた。


「おい、ライアン、ルルちゃんにあまり押し付けるな。お腹壊したらどうする」


「そうだ。ルルに無理をさせるな」


「まぁ、二人とも過保護ねぇ。でも、ルルをよく見てみなさいよ、もう少し肉付きよくしたほうが良いじゃない」


 そう言われ、ルーカスとアランは思わずルルの慎ましい膨らみや、腰から脚に繋がるラインに目を向けてしまった。

 今王都で流行りの洋服はスカート丈が短く、身体のラインがよく分かるような型のおかげで、ルルの華奢な感じが際立っているように思えた。


「……うん。いや、俺は今のままでも充分可愛いと思うが、なるほどライアンの言う事も、一理ある!」


 真面目な顔つきでそう言ったのはアランだった。普段あれほど邪険にしていたライアンの意見に賛同するとは、自身の願望に忠実な男である。


「ねーよ! アランもライアンにつられて、あまりルルちゃんを煽るな」


「分かった。では、食事以外で成長を促す手伝いを、俺が……」


 ガンッっと鈍い音がして、アランは思わずテーブルに突っ伏した。ルーカスが脚で思いっきりアランの脛を蹴ったのだ。


(いきなり何を言い出すのかと思えば、この男は……)


(何だと! お前だって本当はルルのそんな姿を想像したくせに)


(し、してねーよ……! お前と一緒にするな)


 口には出さず互いの表情で会話を交わしながら、テーブルの下で脚を蹴り合う。しかし、そんな男同士の醜い小競り合いが続く中、ライアンがおもむろに立ち上がった。


「ほらぁ、見てみなさいよルル! こことかここも凄いでしょ!」


 何を思ったかライアンが、自分の座っていた椅子にダンッと片足を乗せ、両腕を掲げぐっと腕に力を込めてポーズを取ると、ルルにはつらつとした笑顔を向ける。


「ほら、ほら、いっぱい食べないと、こうなれないわよ!」


 二の腕や、太ももにふくらはぎの筋肉を強調させるライアンに、ルーカスとアランは思わず声を上げる。


「「そっちの事じゃねーよ!」」


「え!?」


 二人の青年の願望まみれの突っ込みに、ルルがきょとんとした感じで首を傾げる。


「あの……、森の中では力仕事も多いので、私もライアン様みたいに少しでも逞しくなりたいなって思っていたのですが、もっと違う部分を気にしたほうが良いのでしょうか?」


「そうよ! さっきルルの普段の暮らしぶりを聞いて、せっかくアタシが鍛える部分を教えてあげようとしたのに、何よ、どこか間違ってたの?」


 ――おのれ、ライアン! 何て紛らわしい言い方をっ……!


 ルルが深刻な顔をしていたので、てっきり自分達が注目してしまった部分と、同じところを気にしているのかと思えば、どうやら全く違ったらしい。

 正直、ルルとライアンが予想以上に仲良くなっており、なかば置いてきぼり状態のルーカスとアランは二人の会話についていけずにいたのだった。


 ――まずい……!


 この純粋な少女に対して、自分達が邪な想像をしていた事を悟られるわけにはいかない。そうなれば、自分たちの印象が落ち、その分ますますライアンへの好感度が上がってしまう。

 珍しくルーカスとアランが結託して、何とかその場を取り繕うのであった。



 しかし、なにはともあれ今夜のルルはライアンのおかげで、とびっきりの美少女になったばかりではなく、ルーカスとアランが見たことがないくらい、よく食べる姿があった。


 やむにやまれぬ事情で森に暮らすようになったルル、ヴィリーと一緒に仲良く暮らしてはいるが、久しぶりに人との触れ合いを経て、今夜はまたちがった感じの楽しそうな少女の様子に、ルーカスとアランも王都へ連れて来て良かったと思った。


 それと同時に、一時的な措置とはいえ、やはりこのまま必要最低限の人との繋がりしかもたない今の暮らしは、ルルにとっても良い影響ではない。何とかして水源を突き止め、ルグミール村とルルの関係を修復させなければと、あらためて考えさせられた二人だった。



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