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噂のあの人 2


 ライアンと呼ばれた大柄な男性は、ひと通りアランに対して悶え終えると、目の前で事の成り行きを、呆然と眺めていたルルに視線を戻した。


「ふふん。アタシとアランはこういう関係だから、貴女の出る幕じゃないのよ。やぁね〜、王都にいるドロボー猫は、全員追い払ったと思ったのに、まだちょっかい出そうとしている悪い猫がいるなんて! あらぁ? でも、あなたいつもとは毛並みが違うわねぇ……」


「ライアン……、そろそろその口を……」


 怒りが頂点に達したアランが殺気を込めて口を開いたが、ライアンはルルのつま先から頭のてっぺんまで値踏みするように、眺めてこう言い放った。


「やだぁ! 最近、ちっともアタシと遊んでくれないと思ったら、アラン本当はこんな少女趣味だったのね!」


 今度は、周りの女性達から別の意味が込められた悲鳴が巻き起こった。


「でもぉ、アタシならそんなアランも全て、受け止めてア・ゲ・ル!」


 しかし、ライアンはそんな周りをさらに煽るかのように色気たっぷりにそう言うと、挑発的な視線をアランに向け、耳にフッと息を吹きかけて、微笑んだ。


 一方ルルは、突然現れた男性に一方的にまくし立てられ、一言も口を挟めないほど困惑を極めていた。

 しかし、ライアンという名前に覚えがあった。確か、森で療養中に届いたアランへの手紙の送り主で、ルーカスやジョージからもその名前を耳にしていたので、どうやらこの男性がその「ライアン」なのだろう。


 ただ、ライアンのここまでの言動を聞く限り、アランとはとても親密な関係で、ルルを見て敵対心をむき出しにしているその態度に、自分の存在が何か誤解をさせてしまい、迷惑を掛けているのではないかと心配し、どう自己紹介すればいいのか困っていた。


(え〜と、私はアラン様の友達? ううん。私なんかがそんなおこがましいよね……。でも、知り合いというよりは親しくさせてもらっているし、この人が言うように猫でもどろぼうでもないし……。あれ? そう言えばアラン様が、王都ではヴィリーのかわりに……)


 目の前のライアンはもちろん、周囲から好奇の目に晒され、すっかり注目を浴び焦ってしまっていたルルは、考えがこんがらがったまま口を開いてしまった。


「あ、あの、私は、え〜と、その何と言いますか……、アラン様が王都で、今日は散歩に連れてってくれると言ってくださって、確かヴィリーのかわりに……、だから、私は、今日は、ア、アラン様の「犬」なんです! 猫ではありません!」


 何とかしなければと、ぐるぐる考え込んでしまい口をついて出たとんでもない言葉に、今度は悲鳴が上がらず、逆にスッと何かが引いたような静けさに包まれてしまった。


 流石のライアンもルルのこの発言には、ひどく驚いた。

 そして、すかさず真実を説明するかに思われたアランは、不思議と穏やかな表情を浮かべて、ルルに「少しここで待っていてくれ。

 すぐに戻ってくるから、絶対に動いてはいけないよ」とニッコリ笑い、ライアンを連れてすぐ先の路地裏に消えた。


 静まり返ったまま、気まずい雰囲気に包まれる人集りの中心に、一人取り残されて、居心地が悪いやら、心細いやらのルル。

 周りにいた人達も、少女の発言の衝撃が大きかったのと、アランがこの場を離れる際に見せた表情に、誰一人ルルに話し掛ける勇気はなく、一様に少女から目を逸らし、何事もなかったようにその場からひとり、またひとりと立ち去っていった。


 ように見えただけで……。実は、今見た一連の出来事を、とにかく誰かに話したいと、一目散にそれぞれの友人や知人のもとへ、散らばっていっただけの事だった。


 注目が逸れた事に少し安心していたルルだったが、その裏では恐ろしい程の速さで、尾ひれはひれがついた噂が飛び交っている事など、知る由もなかった。



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