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初めての王都 4



 サマンサと仕事の話やルーカスの話が終わった所で、タイミングよく店の扉が開いたので、用事を済ませたルーカスが戻って来たのかと思ったが、やって来たのはアランだった。


「おや? アランじゃないか、久しぶりだねぇ」


「お久しぶりです。サマンサ殿」


「どうしたんだい? ルーカスなら少し出とるよ」


「いえ、ルーカスの事はどうでもいいんです。ルルの様子を見に来ただけで」


「これ! うちの孫をどうでもいいなんて、面と向かってまったく……」


 挨拶もそこそこに、アランは文句を言うサマンサなどおかまいなしに、ルルに話し掛けた。


「ルルどうだった? 苛められたりしていないか? もし断られても、俺がもっと良い店を紹介してやる」


「変な言いがかりはやめとくれ。ルルの薬ならウチの店に置くことに決めたよ」


 意外にもサマンサとアランは、付き合いが長かった。

 いつだったか、ルーカスが寄宿舎で出来た友達だと連れてきた時のアランは、見るからに育ちの良さそうな大人しい男の子で、やんちゃな孫のルーカスにもこんな友達が出来たのかと驚いたくらいだった。


 ところが、ルーカスと遊びはじめるとすっかり影響されてしまったのか、様々ないたずらに手を染め、サマンサも二人が子どもの頃は何度も叱ったりしたものだった。

 そうこうしているうちに、反対にアランの方からルーカスに色々と持ち掛ける事も多くなり、すっかり悪友となってしまっていたのだ。


 その後いたずらから卒業し、警備隊に入ると二人ともだいぶ落ち着いた青年へと成長したものの、その頃からアランは特にその容姿から女性との噂が絶えず、それはサマンサの耳にも度々届いていた。



「サマンサ様に認めていただいて、無事にお薬を卸してもらえるようになりました。とても嬉しいです」


「それは良かった。歳を取っても見る目はまだ衰えてないようですね」


「何だってぇ、失敬な! もしや、アラン……」


 さっきから友達の祖母だろうがなんだろうが、遠慮なく失言を吐くアランに、いくらサマンサが怒ったところで青年の関心は、ただ目の前の少女にのみ注がれていた。


(何だい? ルーカスだけじゃなく、あのアランまでこの子に……。あちゃー、よりにもよって厄介な男に目をつけられたもんだねぇ)


 サマンサは思わずため息をついた。

 厄介と言えば今の孫も十分厄介な代物だが、アランのロマンスの噂もそうとう飛び交っていた。

 正直、あまりよろしくない内容ばかりだ。

 だから、サマンサはこれほどの執着を見せるアランの姿を見るのは初めてで、それに驚きを隠せなかった。


 けれど、あの頑なだった孫がルルと出会った事で、変化を見せ始めたほどの存在である。それを思うと、一緒にいたアランが少女に参ってしまってもおかしくはない。

 しかし、孫にとってはもしかすると、もしかすかもしれない少女なのだ。孫の幸せも大事だが、それよりも何よりも、辛い経験をしながらも健気に生きているルルを、個人的に好ましく思い始めている。


 正直、根は良い男なのはサマンサも分かっているが、数々の浮名を流しているような男に引っ掛って苦労するのは目に見えている。そんな少女の姿は見たくないものであった。


「うちの孫嫁にちょっかい出さないでくれるかい?」


「……よ、嫁だと?」


「ああ、アタシはこの子が気に入ったんだよ。ルルさえ良ければルーカスの嫁に来てもらおうと思ってる」


 牽制するようなサマンサの言葉に、アランはギョッとしたような顔をしたが、それよりももっとギョッとしたのはルルだった。


「えっ! あ、あの、お、お嫁さんって……。わ、私がルーカス様の?」


「そうだよ。うちの孫は嫌いかい?」


 そう聞かれて、ルルが嫌いだと言う訳がなかった。


「そんな、嫌いだなんてとんでもありません。ルーカス様は優しくて、とても素敵な人なので、そ、その……す、好きです」


 咄嗟に答えたものの、自分の発言に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にさせながら、すぐに言葉を取り繕うルル。


「っ……! いえ、その好きと言っても、その、私なんかが……ルーカス様の、お嫁さんなんて……」


 しどろもどろになりながらも、恥じらうように言い募るルルの姿に、アランは焦りに焦った。


「クソっ! ルルに何てことを言わせるんだ! 婆さん!」


「婆さんとは何じゃい!」


 婆さん呼ばわりをされて憤慨するサマンサだったが、咄嗟に名前すら呼ぶ余裕もないアランにはそんな事に構っていられない。

 ルルの肩に手をかけ自分の方へ向かせると、真正面から少女を見据え真剣な眼差しで口を開いた。


「ルル、俺の事は嫌いか?」


「えぇっ! ア、アラン様ですか? そんな嫌いなはずないです……」


「それは、好きという事か?」


「えっ……と、は、はい。好きですけど……」


 先程のサマンサの「お嫁さん」という言葉に、思考がぐるんぐるんとしていたルルは押し負けたように答えた。

 卑怯な聞き方だったがそれでも何とかその言葉を引き出す事に成功したアランは、ひとまず胸をなでおろしたのだった。


 しかし、丁度そこへ用事を済ませて戻ってきたルーカスは、アランに憤慨している祖母や、顔を真っ赤にさせているルルの姿を見て、またこの男が何かやらかしたのかと、それぞれの事情を聞き落ち着かせるのに苦労したのだった。



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