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ほんの少し前を向いて 5



「ロッティ! ニコル!」


 懐かしい人物の姿に、喜びを隠しきれずに、思わず大きな声で呼んでしまい、慌てて口を抑えるルル。

 久しぶりに会えて、よっぽど嬉しかったのだから仕方ない。


 そんなルルに呼ばれた二人も、負けず劣らず大きな声で少女の名を呼び、駆け寄るとそのままの勢いで抱きついた。

 意外と力のあるロッティは、久しぶりに会った親友をこれでもかと抱きつぶし、弟のニコルは、思春期のぶっきらぼうを投げ捨てて、姉の隙間を縫いルルの胸に遠慮無く顔をうずめた。


 が、しかし、その瞬間すぐさまアランがニコルの襟首をひっ捕まえて、ルルから引き剥がした。


「やめろよ、おっさん」


 ニコルの言葉が、大人気ない行動を起こしたアランの胸をえぐった。


「っ……! だれが、おっさんだ。『お兄さん』だろ、この、エロガキ!」


「ふん! 久しぶりの再会なんだから、邪魔すんなよ。それに、ガキだから許されるんだぜ」


 いつもなら、子供扱いをするとむきになって怒るニコルだが、今回はアランにそう言うと、今一度真正面からルルに抱きついた。

 ロッティに気を取られて、今のやり取りに気がついていなかったルルは、飛び込んできたニコルを満面の笑みで、迎え入れる。


「ニコル。しばらく見ない間に、少し背が伸びたみたいね」


 ニコルの頭が丁度胸の辺りに来ていた事にルルは、少年の成長を感じ喜んだ。

 自分に対する警戒心がちっともないことに、ニコルは小さな不満を抱くものの、つまらない意地はとりあえず脇に置いといて、ルルの胸の中でアランにチラリと勝ち誇った笑みを向けるニコルだった。


 そんな少年を悔しそうに、そして羨ましそうに(にらみ)みつけるアラン。


「ニコルの方が一枚上手だったな」


 そんな二人の攻防を見ていたルーカスはやれやれといった感じで、大人げない同僚をいさめるようにアランの肩をポンと叩いた。


 ルーカスとアランは仕事の関係で、ルグミール村に滞在しており、たびたびルルのところにも出入りしているという事で、村の長はもちろんロッティやニコルとの親交も多くなっていた。


 今回、王都へ行くにあたりせっかく森を出るのだから、その際、久しぶりに元気な姿をひと目見たいと思っていたロッティとニコル、もちろんルルも同じ気持だった。

 しかし、ルグミール村で始まった水路事業。水路の準備は着々と進んでいたが、いまだ水脈が見つからない状態に、村人達の焦りと不安はいまだ続いていた。


 ロッティとしてはルグミール村に堂々とルルを迎えたかったが、村の雰囲気はルルが居なくなってからも、あまり良くなっていなかったのである。


 そんな三人の再会の手はずを整えてくれたのは、アランとルーカスだった。


 今のルグミール村にルルが姿を表わすのは控えた方が良いと判断して、それは村の外れの人目につきにくい場所での再会であった。

 本当は、村の長をはじめ事情を知る大人達も、ルルの無事を自身の目で確認したかったが、あまり人数が多いと目立ってしまうかもしれないという事で、今回ロッティとニコルがその役目を担うことになった。


 それでも、こうやって会えて元気な姿を見れただけで充分に嬉しい事だった。


「ごめんね、ルル。こんな場所で隠れるように、会わなきゃいけないなんて……」


「ロッティが謝ることじゃないわ。……そう、まだ水脈が見つからないのね。それじゃあ、村の皆が不安になっているのも仕方ないよ……」


 めずらしくしょんぼりした声のロッティに、ルルはそう慰めたが。


「そんなのルルのせいじゃない! 雨が降らないのも、水脈が見つからないのも、上手く行かないこと全部、居なくなったルルのせいにしている皆の方が悪いんだ!」


「ニコル……」


 村のみんなもルルが悪いと本気でそう思っている訳ではないが、不安をぶつける先が欲しいのだろう。

 悲しいけれど、そう思う事でやり過ごそうとしていたが、こうやって分かってくれる人もいるのだ。

 ニコルの言葉にルルは胸がいっぱいになった。


 そして、先ほどルルを巡ってバチバチと火花を散らしていたアランも、おもむろにニコルの頭をガシガシと撫でた。


「よく言った、少年。なかなか見所があるじゃないか! そうだ、ルルは何も悪く無い。悪いのは……」


 村の連中だ。と咄嗟に言いそうになったが、そこではたとアランは考えた。

 ニコルと同じように何もかもルルのせいにしている村の大人達をアラン自身も腹立たしく思っていたが、ルルにとっては生まれ育った村だ。

 ニコルは遠慮なく言ったものの、外からの人間が村人の悪口を言ってしまうと、ルルとて少なからず悲しんでしまうのではないか、そう思うとそれをそのまま素直に口にするのは、はばかられた。


「えーと……悪いのは、そ、そうだ! なかなか水脈を発見できない、ジョージ殿だ」


 ジョージというのは、王都から派遣された水路事業の指導兼責任者である。

 アランは苦し紛れに非難の矛先をねじ曲げて、咄嗟にこの場にいないジョージの名前を出してしまった。


「おいっ! アラン。一生懸命水源を捜索しているジョージ殿に何て言い草だ」


 王都から派遣されたジョージは、岩山から村までの地形を測量しながら、水脈の候補地を上げていく。

 そう簡単に見つからないと言われても、掘って水脈が出ないたびに、暗く沈む村人達の矢面に立ち、宥め励まし、測量しなおしまた次の候補地を探していた。

 そんな、ジョージの苦労を思うと、アランの苦し紛れの冗談だと分かっていても、黙って見過ごすことは出来ない。


「いや、良いのだよ。ルーカス殿」


 すると、何処からともなく穏やかな声が聞こえ、木の影から壮年の男性が姿を現した。



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