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ほんの少し前を向いて 4



 慌ただしくも着々と準備は進み、王都へ出発の日を迎えた。


 ルルは、初めての遠出に心が踊ると同時に、ヴィリーと離れるという事にとてつもない心細さと寂しさを感じていた。

 そのため森の家の前では、ルルがヴィリーに抱きつき今生の別れとでもいうように熱い抱擁(ほうよう)が続けられていた。

 ところが、その様子を見ていたアランが突如(とつじょ)不気味な笑いを零したものだから、ルーカスは嫌な予感がしてたまらなかった。


「ふっふふふっ。今日から2日間、俺はヴィリーの代わり……、俺はルルの犬……。という事は俺もあんなふうに……」


「ねーよ! ……おい、頼むから、あんまりルルちゃんを、困らせるような事はするなよ」


 アランの危ない発言に思わず頭を小突きながらそう注意したが、正直ルーカスの小言を聞いている様子は微塵もなかった。

 完全に浮かれまくっている様子に、この旅でルルが大変な目に合いそうな気がして心配でたまらないルーカスだった。


「じゃあ、行ってくるね。ヴィリー! 明日には帰ってくるから、それまで元気で、良い子で待っててね」


 名残惜しそうにしながらもルルがそう言って立ち上がると、さすがのヴィリーも離れがたいのか、クゥ〜ンと甘えてくる。


 今朝起きた時から、どことなくそわそわとした様子で足元をぐるぐる回っていた。

 そして、今もやけに心配そうに(ルル)の顔を見上げていたヴィリーだったが、何度もルルにさとされ最後には大人しく見送ってくれた。


 こうして三人はヴィリーに別れを告げ、ルルを先頭に森の出口へと向う。

 本当に迷いの森とは良く言ったもので、何度となく通ってきてある程度慣れたはずなのに、やはりルルとヴィリーどちらかの案内なしではいまだ辿り着けないでいた。

 そんなふうにルーカスがいつものように不思議に思いながら歩いていると、急に何かに足を取られつんのめってしまい、思わず前を歩いていたアランにぶつかってしまった。


「わるい、アラン」


「フンッ、気をつけろ。日頃の鍛錬(たんれん)(おこた)るから……おわっ!」


 ルーカスに注意をするアランだったが、その直後、彼もまた何かに引っかかり同じく転びそうになった。


「大丈夫ですか? ルーカス様、アラン様」


 心配したルルが振り返り駆け寄って来る。

 ふと足元を見ると何やら蔦のような植物が、ところどころうねり輪っかのようになりながらそこら辺に蔓延っていた。


「この蔦に引っかかってしまったんですね。……どこかお怪我とかありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。俺は普段から真面目に鍛えているからな。しかし、ルルが転んでしまう危険があるから抱き上げて行こうか」


 出発前にあれほど注意したばかりなのに、早速ルルを困らせるような事を言い始めた。


「大丈夫ですよ。森の中はお二人より慣れていますから」


 しかしルルは笑いながらそう言うと、輪っかになった蔦の部分だけ、ひょいひょいと器用に避けながら、スタスタと歩いて行くのを見ると確かに心配はいらなそうだった。

 森のなかではルルの方が一枚上手のようだった。


「しっかし……、この蔦まるで罠みたいにうねってるな」


「ああ、今までそんなに気にならなかったが、少し厄介だな」


 そう呟きながらルルのあとをついていく。流石に転ぶことはなかったが、それからもやけに足を取られながら、少し苦戦気味に歩くルーカスとアランだった。



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