密談 1
時は、三ヶ月ほど前にさかのぼる。
――三ヶ月ほど前、ルグミール村にて。
「長殿! このままでは村が……」
夜も更けたルグミール村の長の家で、数人の大人達が机を囲み、皆、一様に深刻な表情を浮かべて、話し合いを行っていた。
「……分かっておる。しかし、ここにいるお前達には以前話したであろう。あれには何が必要なのかを……。忘れたわけじゃ、なかろう?」
まるで、これから行おうとしている事の正当性を示すかのように、それまで口々に村の窮状を訴え続けた者達だったが、村の長のその言葉に、思わずぐっと言葉を詰まらせた。
古の時代から、村に代々言い伝えられてきた伝承……。
その裏に潜む後ろ暗い内容を、村の長から聞かされたのは、つい先日の事だった。
「その意味をお前達は、本当に分かっておるのか?」
村の長は厳しい声を絞り出し、もう一度ゆっくりと、皆がその事を認識しているか確かめるように聞いたのだった。
◇◆◇
サンレアン王国。
緑少ない岩山が連なり、一年を通して限られた時期にしか雨が降らない土地。
しかし、一見厳しくも見えるこの土地は、その連なる岩山が大きな水瓶の役割を担っており、貴重な雨水を余すことなく溜め込んでくれているおかげで、地下水は豊富であった。
そこで、王都では水路事業を立ち上げることになった。
長い期間と労力をかけついに水脈を掘り当てることに成功すると、そこから測量技術を駆使し、傾斜を考慮しながら緻密な設計のもと、街中に血管のような水路を張り巡らせる。
そして、飲水、料理に使用する水、野菜を洗ったり、食器や衣服の洗濯等、生活利用水の順番や場所を決め、皆がルールを守り円滑に水路を有効活用できるよう工夫を凝らしていった。
こうして、サンレアン王国は雨が少ない土地といわれながら、豊かな生活をおくることが出来るようになったのだ。
しかし、これはいまだ王都とその周辺のごく限られた地域の話であり、王都から離れた小さな村々では、まだこの水路事業というものが浸透していなかった。
そこで、王国はこの水路事業を各地にも広めようと尽力をはじめたが、遅々として進んでいなかった。
それには、辺境地域の村特有の閉鎖的な環境が関係していた。
そこで生まれ育ってきたのだから、保守的な考えに固執するのも無理は無いことかもしれない。
故に、変化を嫌う彼等にとって革新的ともいえる水路事業に、はなから耳を貸すことすらなかった。
そして、ここルグミール村も、そんな保守的な考えを持つ小さな村のひとつであった。
ただ、この村には水路事業の話は、まだ届いてもいなかったのである……。




