表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/189

密談 1

時は、三ヶ月ほど前にさかのぼる。




 ――三ヶ月ほど前、ルグミール村にて。



(おさ)殿! このままでは村が……」


 夜も()けたルグミール村の(おさ)の家で、数人の大人達が机を囲み、皆、一様に深刻な表情を浮かべて、話し合いを行っていた。


「……分かっておる。しかし、ここにいるお前達には以前話したであろう。あれには何が必要なのかを……。忘れたわけじゃ、なかろう?」


 まるで、これから行おうとしている事の正当性を示すかのように、それまで口々に村の窮状(きゅうじょう)を訴え続けた者達だったが、村の長のその言葉に、思わずぐっと言葉を詰まらせた。


 (いにしえ)の時代から、村に代々言い伝えられてきた伝承……。

 その裏に潜む後ろ暗い内容を、村の長から聞かされたのは、つい先日の事だった。


「その意味をお前達は、本当に分かっておるのか?」


 村の長は厳しい声を絞り出し、もう一度ゆっくりと、皆がその事を認識しているか確かめるように聞いたのだった。




◇◆◇




 サンレアン王国。


 緑少ない岩山が連なり、一年を通して限られた時期にしか雨が降らない土地。


 しかし、一見厳しくも見えるこの土地は、その連なる岩山が大きな水瓶(みずがめ)の役割を担っており、貴重な雨水を余すことなく溜め込んでくれているおかげで、地下水は豊富であった。


 そこで、王都では水路事業を立ち上げることになった。

 長い期間と労力をかけついに水脈を掘り当てることに成功すると、そこから測量技術を駆使(くし)し、傾斜(けいしゃ)考慮(こうりょ)しながら緻密(ちみつ)な設計のもと、街中に血管のような水路を張り巡らせる。


 そして、飲水、料理に使用する水、野菜を洗ったり、食器や衣服の洗濯等、生活利用水の順番や場所を決め、皆がルールを守り円滑(えんかつ)に水路を有効活用できるよう工夫を凝らしていった。


 こうして、サンレアン王国は雨が少ない土地といわれながら、豊かな生活をおくることが出来るようになったのだ。


 しかし、これはいまだ王都とその周辺のごく限られた地域の話であり、王都から離れた小さな村々では、まだこの水路事業というものが浸透(しんとう)していなかった。


 そこで、王国はこの水路事業を各地にも広めようと尽力をはじめたが、遅々として進んでいなかった。


 それには、辺境地域の村特有の閉鎖的な環境が関係していた。

 そこで生まれ育ってきたのだから、保守的な考えに固執するのも無理は無いことかもしれない。

 故に、変化を嫌う彼等にとって革新的ともいえる水路事業に、はなから耳を貸すことすらなかった。


 そして、ここルグミール村も、そんな保守的な考えを持つ小さな村のひとつであった。



 ただ、この村には水路事業の話は、まだ届いてもいなかったのである……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ