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それは、花のように 1



「アラン……本当にそれ、全部持っていくのか?」


「当然だ」


 いつになく上機嫌なアランの手に持っているものを見て、ルーカスが(あきれ)れながらも一応聞いてみたのだが、なんのためらいもなく即答された。やはり、浮かれているようだ。


「それ……、いくら何でも多すぎだろ。そんなに渡されたら、ルルちゃんだって、ちょっと困るんじゃねーの?」


「問題ない。彼女は今までずいぶん辛い思いをしてきただろう? まだ子どもというべき年齢から一人で勉強して、仕事をして……。普通の子に比べて、他人の好意に頼る事が少なく、あんな目に遭ってからは特にそうなんだろうな……。俺がルルに何かしてあげようとしても、ほんの少しの事でも遠慮しがちだ……だが、そこがまた健気で……」


 ニヤけた顔をしながら饒舌(じょうぜつ)に話しつつも、アランの核心を突くような思わぬ推察力に、ルーカスは素直に驚いていた。


 あれから、ルーカスとアランは仕事に復帰して、今はその仕事の関係でルグミール村に滞在していた。なのでここぞとばかりに、休日はもちろん普段から時間を見つけては、ルルの森の家に何度も訪れるようになっていた。

 ちなみに、二人が森に出入りしている事は、ルルの事情もあり限られた村人以外には伏せられていた。


 アランの言葉通り、森で訪れるようになり、何かと森の生活を気にかける二人に対して、ルルはいつも「大丈夫」「心配いらない」と言うばかりだった。

 しかし、そんなルルの言葉を真に受ける事なくルーカスも、特にアランは強引にでも少女の手伝いをあれこれとかって出ていたので、最終的にルルが折れる形になっているものの、彼女の謙虚ぶりは相当なもので、ルーカスはそこが心配でもあった。


「アランの言いたい事は、分かったけど、それとその手に持っているものに、何の関係があるんだ?」


「これは、俺の愛だ!」


「は?」


 アランの強引さは目に余る事も多々あったが、何も考えていないようでちゃんと見ているんだなとほんの少し感心しながら声を掛けると、せっかくの見直すチャンスを一瞬にして壊すような発言が飛び出した。


「これは俺の愛の気持ちを込めた、ルルへのプレゼントだ」


「はぁ……」


 ぽかんとしているルーカスに、アランはさも物分りが悪い奴だなという顔をしながら、何やら(えつ)に入ったように、語り始めた。


「だからな、これから俺がルルを存分に甘やかして、甘やかして、甘やかし尽くせば、彼女の遠慮も取り払われて、そのうち(とろ)けるような笑顔で、プレゼント受け取ってくれるようになるはずだ。そのプレゼントには? ほらルーカス、何が込められているか言ってみろ。そう、そうだ! 俺のルルへの溢れんばかりの気持ちが込められているだろ。ということは、俺の愛も一緒に受け取ってくれるようになるという事だ」


「どんな理屈だよ! つーか、その量の多さ……気持ち込めすぎだろ! 重すぎるわ! 怖ぇーよ!」


「ふっ、何とでも言え。ルルを存分に(おぼ)れさせてやるのは俺の役目だ」


 そう言ってる本人が、すでに一人の少女に溺れきっている状態なのだが……。

 微妙に会話も()み合ってないし、もうアランに何を言っても仕方ないと悟ったルーカスがため息をつくと、ヴィリーがその気持ちを代弁してくれたのか、かぷりとアランの足を()じった。

 悶絶しているが、それは自業自得としか言いようのない事を口走っていたので仕方のない事であった。


 今回二人は、ヴィリーの案内でルルの家に向かっていた。

 つい先程、待ち合わせ場所である森の入口に置いてある郵便箱に二人が着くと、ヴィリーがひょっこりと顔を(のぞ)かせ、ついてこいとでも言うような素振(そぶ)りで、ルーカスとアランを誘導(ゆうどう)した。


 森へ通うようになって初めのころはルルが案内してくれたが、ルルも森の生活で手が離せない時もあり、ヴィリーが代わりを努めるようになった。

 最初こそヴィリーと呼ばれるオオカミに――ルルはいまだ犬だと思っているが……、警戒していたが、ルルも言っていたように相当賢いのだろう。こちらが(ルル)に対して害をなさないと認識すると、無闇(むやみ)敵意(てきい)を向けることはなくなった。


 しかし、ヴィリーの敵意が軟化(なんか)したのには、ただ単に害がないと認めたわけではなかった。正直、ルーカスに対しては早々に警戒を解いていたが、問題はアランである。


 幾度(いくど)となく釘を差してきた。ルルにちょっかいを出そうとしていると何度も噛んできた。しかしアランはめげることなく、次の日には何事もなかったように現れ、ルルをかまうのだ。

 こうなるとヴィリーもきりがないとばかりに、よっぽどの事がない限り、大目に見ることのしたらしい。

 それに何より肝心(かんじん)(ルル)が彼らの訪問を、どことなく嬉しそうにしているのをヴィリーは気がついていた。


 それに、彼らはヴィリーにとっても思いっ切り遊べる相手でもあった。

 たまにヴィリーが二人をからかったりしてやると、二人も警備隊で鍛えているのか、思いの外抵抗を見せるのだ。それがヴィリーをより楽しませてくれていた。


 正直、ルーカスとアランにとってヴィリーの「遊び」は、時々命の危険に晒される事もあり、たまったものではなかったが、それをルルに告口(つげぐち)する事が出来るはずもなく……。


 しかし幸か不幸かいつの間にか、こうやって案内をしてくれるほどの仲になっていたのだった。



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