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束の間の休養 7



 そうこうしているうちに、王都へ報告に行っていたルーカスが戻ってくる日がきた。

 その前日に、また森の家までの案内を頼みたいと、村の長を経由して、ルルに予定の時間を書いた手紙が届いていた。


 ルルは、約束の時間よりだいぶ早いと自分でも分かっていたが、居ても立ってもいられず森の入口まで迎えに行った。アランの事は、すっかり体調も良くなっていたが念のために、またヴィリーに頼んで留守番をしてもらっている。


 なんだか少し嬉しさを感じているのか、そわそわとしながらルーカスが来るであろう方向を何度も確認する。

 そして、遠くの方にルーカスの姿を見つけると、思い切り手を振り、思わず大きな声で名前を呼んでしまった。


「ルーカス様!」


 ルーカスは、遠くで自分の名前を呼びながら、元気に手を振るルルを見つけると自然と口角が上がっていた。

 最初の出会いも、その後の再会も予想外な形だったので、やっと普通に会えたような気がしたのだ。

 そして、ルーカスもそんなルルに向かって、大きく手を振り返した。


「数日ぶりだね、ルルちゃん。元気にしてた?」


「はい。アラン様は無事に回復したみたいです。ルーカス様は道中お体大丈夫でしたか?」


 ルルが元気かどうか聞いたのだったが、真っ先にアランの状態を教えてくれ、自分の体を心配してくれた。


(全く、この子は他人の心配ばかり……)


 ルルの優しさにルーカスは少し苦笑しながらも、変わらずに元気な様子のルルの頭をぽんぽんと撫でた。

 ルーカスのその仕草に、父親にもよくそうして貰っていた事を思い出し、何だか子どもの頃に戻ったみたいな感じがして、少しくすぐったい気持ちになったけれど、懐かしくてルーカスが撫でてくれるのを、大人しく受け入れていた。


 そして、またもやルルの案内で森の中を歩いていく。今回もルルはヴィリーもいないのに、何の迷いもなく歩いていた。

 そのことを聞いてみるとやはり「慣れているから」という素直な答えが帰ってきた。

 しかし、目印になるようなものは何もない。ルーカスには全部同じような景色に見えるのだ。


「森の奥はヴィリーと一緒じゃないと私も少し迷うんです。でも、この辺りだといつも何となくこっちだよって、誰かが(ささや)いてくれている気がして……その通りに歩くと家に着いちゃうんです」


 不思議に思っているルーカスに、ルルはそんな事を言った。

 確か、ルグミール村ではここは神聖な森とも呼ばれていた。そんなところに住んでいると感覚なども研ぎ澄まされているのだろうか……。

 そんな事を考えていると、あっという間にルルの家に着いてしまった。



 ルーカスは寝室に入ると、ルルがもう回復したと言っていたにも関わらず、いまだベッドにいるアランに呆れてしまった。

 おまけに、体を起こしくつろいだ様子で本なんかを読んでいる。まるで自分の家とでもいうような振る舞いと馴染(なじ)み方だった。


「やけに早かったな。ルーカス」


 不機嫌そうな表情を隠すことなくアランがそう言うと、わがままを聞いて、一人で報告に行ってやった自分に対してのその態度に、無性に腹が立ってきたルーカス。


「早くて悪かったな。その代わり、良い仕事持ってきたぞ」


「そうか。俺は日頃の疲れが(たま)まっているから、しばらく休暇をとる。そう、また報告に行ってくれ」


 ある程度、ゴネるとは思っていたが、想像以上にとりつくしまもなかった。

 ちなみに、ルルは、外で薬草畑の手入れをしている。


「話は最後まで聞けよ。仕事はルグミール村の水路工事の観測と周辺の視察だ。どうだ? これなら仕事もしながら、彼女の様子も見に行けるだろ?」


「じゃあ、このまま……」


 このままルルの家に居着きそうな勢いのアランを、すかさず止めた。


「待て、待て。ルグミール村の長に頼んで、村で長期滞在出来るように部屋を手配してもらっている。いつまでもここで彼女の世話になっていたら、迷惑だろ?」


「そんな事はルルに聞いてみないと分からないだろう? 口には出せないだけで、森の生活で心細い思いをしているかもしれない」


「あんな良い子に聞いても、好きなだけここにいてもいいとしか言わないだろ? そりゃ、確かに心細く思っているかもしれないけれど……あのヴィリーがいるんだぞ。それに、お前がここにいると、ルルがちゃんと休めないだろ、今だってそのベッド占領してんだし」


 そう言われると、アランも言葉に詰まってしまう。確かに、自分がいくら体調が戻ったから長椅子で寝ると主張しても、ルルは頑なに拒んでいた。


「確かに、今はそうだが……。しかし、その内ルルとは一緒のベッドに寝るような関係になるから、大丈夫だ!」


「ぶっ!? はぁぁぁ? お、お前、何言ってんだ? バカじゃねーのか! ……まさか、ルルちゃんに変な事してないだろうな?」


 突然飛び出してきたアランの超絶理論に、ルーカスは思わずむせてしまった。


「するわけないだろう。俺ほど紳士な奴はいない!」


 本人はそう言い切ったが、何だかこんな調子のアランを見ていると、ルーカスは自分のいない間のことを想像して、アランがとてつもなくルルに迷惑を掛けたのではないかと、申し訳なく思った。


「冗談は、そのくらいでいいから、諦めて仕事しろ! 仕事の出来る男はモテるぞ」


「チッ……、仕方ないか」


 テコでも動きそうにないアランを、なんとか説得するルーカスであった。



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