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束の間の休養 3



「きゃぁぁあッ……!」


 早朝、ルルの突然の悲鳴(ひめい)に、ルーカスとアランは飛び起きた。

 すぐさま、立て掛けてあった剣を手に取り急いで外に出ると、ヴィリーの(うな)り声まで聞こえてきた。タダ事ではないその雰囲気に緊張が走る。


「どうしたの? ルルちゃん」


「ルル、大丈夫か!」


 二人が駆け付けると、へたり込んでいるルルを守るように、ヴィリーが立ち塞がり、その前方にはルーカスとアランが乗ってきた二頭の馬がいた。

 ヴィリーの剣幕(けんまく)に怯えきった様子の馬達。まさか、暴れてルルが怪我を負ってしまったのだろうか。そう考えたアランの行動は早かった。


「今まで苦楽を共にしてきたが、大事なルルに害をなしたのなら、仕方ない……」


 アランはそう言うとあっさり鞘から剣を抜いた。

 オオカミにも敵意を向けられた上に、まだ何一つ状況が判明していないのに、それこそ苦楽を共にしてきた(あるじ)に、想像だけで悪者にされて剣を向けられた馬達は、人間の言葉が話せないかわりに、最後の頼みの綱であるルーカスを(すが)るような目で見つめていた。


「おい、アラン。まずはルルの状態の方が先だ。馬は後でも……ヤれる」


 ――ひどい。


 馬達が喋れたらきっとそう言ったに違いないだろう。

 とにかく、二人はへたり込んでいるルルに駆け寄り、怪我がないか心配する。


「ルルちゃん、大丈夫どこか怪我した?」


「どうした? 馬達が何か……」


 二人に声を掛けられ、ハッとしたのかしばらく俯いていたルルが顔を上げた。


「あれ? ルーカス様、アラン様、どうして……」


「いや、さっきルルちゃんの悲鳴が聞こえて、慌てて来てみたら、ヴィリーも唸ってたから、馬に突き飛ばされたの? 痛いところとかない?」


「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと、びっくりして座り込んじゃっただけで……。怪我とかはないので大丈夫です。ヴィリー、大丈夫よ。お馬さん達は悪くないわ」


「何があったルル?」


 アランの真剣な眼差しに、ルルはちょっと言葉に詰まりながらも事情を説明しはじめた。


「えっと、あの、ニンジンが……」


「……は? ニンジン?」


「その……、今朝スープを作ろうと野菜を採りにきたら、畑で育てていたニンジンをお馬さん達が引っこ抜いて食べたみたいで……びっくりしちゃって。しかも、一本も残ってなかったから、朝ご飯どうしようって……えっと、お騒がせしてすみません」


 ルルがペコリと頭を下げる。

 とにかく怪我がないという事は分かって、気が抜けた二人だった。


 しかし、ルルが思わずへたり込むのも無理はなかった。森の中の生活、一人だからなんとかやって行けているが、それでも日々の節約は必要な状況に、たかがニンジンとはなかなか思えなかったのであった。


 貴重な食料のひとつが一瞬にして消えてしまった。しかも、今は療養中の青年二人いて、今日は栄養満点! 特製のニンジンスープを作ろうと張り切った分、ルルは自分で思っているよりもその光景に呆然としてしまったのだ。


「ごめんね、ルルちゃん。俺達の馬が大事な食糧を……」


「すまない事をした。でも、大丈夫だ。その身をもって償わせてもらおう」


 キラリと光る剣にまた震え上がる馬達。


「アラン様、だ、大丈夫ですから。お野菜は他にも育ててますし……」


 慌ててアランを止めるルルは、そう言うと今度は馬達に向かって話し掛ける。


「それに、お馬さん達はお腹が空いてたんだよね? こっちこそごめんね、ご飯足りなかったよね」


 謝るルルに馬達は、感動に震え(いなな)いた。思いの外、薄情だった(あるじ)達を目の当たりにして、悲観にくれていた心が、少女の優しさによって癒される。

 そのあと「ごめんね」と言うようにルルにやたらと懐く馬達。


 それが、アランの心を余計に逆撫(さかな)でしている行動とも知らずに……。



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