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束の間の休養 2



 ルルが片付けのため寝室を後にすると、残されたルーカスとアランは、ベッドで背中合わせの状態で少し話し合った。

 間違っても向き合ってはならない。


「体の調子が戻ったら一度、王都に報告に戻らないとな……」


 ルーカスがそう言うと、普段、生真面目なアランとは思えない台詞が飛び出た。


「ルルが村の長に、俺達の状況は手紙で知らせておいたと言っていた。水路事業を指導しているジョージ殿あたりに、事情は伝わっているはずだから、王都にもすでに報告してくれるはずだ。しばらく帰る必要はない。大丈夫だ」


「アラン、お前全く帰る気ないだろ? ……彼女なら俺達が思っているより、ずっと元気にこの森で暮らしている。心配なのは分かるが、また休みにでも様子を見にくればいい。それに、水路事業はまだ始まったばかりで、あまり上手く行っていないらしい。そんな時にジョージ殿に面倒かけてどうする?」


「それは、そうだが……」


 とりあえず、元気で暮らしているルルの姿を見れて安心はしたが、やはり森の中で一人――ヴィリーの事はひとまず置いておく――という状況にアランの心配は尽きることがなかった。

 アランの気持ちは分からないでもなかった。すると、仕方がないとばかりにルーカスはひとつため息をついてこう言った。


「わかった。じゃあ、俺が報告に帰るよ。アランはまだ療養中って事にしといてやる」


「おい、いいのか? ルーカス」


 意外な言葉にアランは驚いて思わず振り向いてしまった。


「こっち向くな、背中に息が当たるだろ! ……しょうがないだろ、お前は全然帰る気ないんだし」


「そうか、じゃ後は頼んだルーカス」


「おいっ! あっさり引き下がるなよ」


 自分の提案に一切の遠慮もなく乗ってきたアランに、ルーカスは文句の一つでも言いたくなったが、どうせ無理だと思いそうそうに諦めて寝始めた。


 アランが最初にルルに抱いた感情は、「可哀想」だった。しかし、同時に弱々しくあまりにも儚いその姿に、庇護欲(ひごよく)()き立てられた。

 そんな中での、花が綻ぶようなあの笑顔に、無性に守ってやりたいという気持ちが湧き起こっていたのだ。

 王都で事務仕事に追われながら、少女の笑顔はずっとアランの心に残って、忘れる事が出来ずにいた。


 しかし、様子を見に来てみれば、彼女の印象は一変に書き換えられた。

 森の中で一生懸命に、健気に暮らしているルルの芯の強さが心に突き刺さった。そして、何よりその心根の優しさに、アランの心はすでに()かれていた。


 しかし、自分がそうなのだから……と、ルーカスにもう一度確認するように聞く。


「本当に、いいのか? ルーカス」


 ルーカスからの返事はなかった。


「……お前、まだあの事を気にしているのか?」


 もしかしてと思って、重ねて聞いて見たが、やはり返事が帰ってくる事はなかった。


 しかし、アランにとってはそれが返事でもあった。

 普段は飄々としているくせに、あの出来事以来ルーカスはいざという場面で、一歩引いた態度をとるようになっていた。

 それを、アランは時折とても歯痒(はがゆく)く思っており、しばしばルーカスに指摘して口論になったりしていたが、今回はあえてそれ以上なにも言わなかった。



(ルーカス、お前が遠慮するなら、俺は……)





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