束の間の休養 1
ルルの介抱は、それは手厚かった。
恩人という事もあったが、それよりも両親の病の時の事に関係しているのかもしれない。
ルルの一生懸命さに感動しながらも、少し度が過ぎているのではないかとアランは目の前の光景を見てそう思った。
ルルは今、まだ体がだるいと言うルーカスの食事を手伝っていた。
「ルーカス様。はい、あ〜ん」
そう言っては、さっきからせっせとルーカスの口にご飯を運んでいるルル。
彼女にしてみれば何の他意もない、真剣に看病しているつもりなのだが、問題なのはそんな可愛らしい仕草を前に、ルーカスの顔がにやけっぱなしという事である。
「熱くないですか?」
「ううん……。あ! あー……、やっぱりちょっと熱いかな」
誰の目にも見え透いた嘘だという事は分かるのに、ルルだけは素直にその言葉を受け止めて、スプーンに掬ったスープをふぅふぅと冷ますと、またルーカスに「あ〜ん」と差し出す。
「うん、すごくおいしいね。ルルちゃんは料理上手なんだね」
「お口に合って良かったです。たくさん食べて、元気になってくださいね」
――う、羨ましい!!!
すぐ隣で、そんな甘ったるいやりとりを見せつけられたアランは、思わずそんな心の叫びを上げた。
そして、小声でルーカスに文句を言い始めた。
「おい、仮病を使って、ルルの手間を増やすな」
「人聞き悪いこと言うなよ。まだ……手がうまく動かないんだよ」
こういう時、ルーカスは本当か冗談か分からない絶妙な調子で、言うものだから判断がつかない。
それもそのはずルーカスは、大丈夫そうに見えて秘かに結構大変な怪我をしている事を隠していたりするので、後で判明して驚かされる事が何度もあったのだ。
目の前のにやけた男は、人に心配を掛けたくないという思いが強いのか、本当に辛い時それを表に出さないという、非常にめんどくさい奴だということを知っているアラン。
だがしかし、今回は仮病の可能性が限りなく高い。
一方、アランは普段から、真面目に訓練をこなし、日々の鍛錬も怠らず鍛えていたのが、今回に関しては仇となったのか、ルルも驚くほど治りが早く一人でも食事が出来るようになっていた。
自分もルーカスのように治りが遅ければ――仮病の可能性が高いが――、ルルに「あ〜ん」をして貰えたのかもしれないと、あまりの羨ましさに半ば本気で真面目に鍛えていた事を後悔するアラン。
早く元気になれば、ルルに喜んでもらえるそう思っていたのに、こんな落とし穴があるとは……。
だから、なおさらルーカスに八つ当たりをするアランだった。
「もう! 二人ともケンカはダメですよ。……でも、それぐらい元気になって、良かったです」
二人の口ゲンカの仲裁に入りながらも、その様子にルルが安心したように笑った。
そして、そんな彼女の笑顔にすぐに大人しくなるルーカスとアラン。
ルーカスとアランは食事が終わると、ルルに薬と水を飲ませてもらいベッドに寝かされる。
一向にお互い一緒のベッドで休むことに慣れない二人……。いや、慣れてたまるかと思っていると、ふとアランが疑問を口にした。
「そういえば、ルルは夜どこで寝ているんだ?」
「えっと、居間の長椅子に……」
「俺達がベッド占領しちゃってるのか……ごめんね。ルルちゃん」
「いいえ! 気にしないで下さい。お二人の体調が戻るにはまだ充分に休息が必要なので、しっかりベッドで寝て下さい。それに、私にはヴィリーがいるので、大丈夫です。ふかふかでとっても暖かいんですよ」
またしても、ヴィリーである。
「ああ、ヴィリーか……」
「とっても毛並みの良い「犬」だよね……」




