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森での再会 6



「大丈夫ですか?」


 ルーカスの悲鳴を聞いて、寝室の扉の外から、先ほどオオカミを呼んでいた声の主だろうか、また可愛らしい声が掛けられて、一人の少女が慌てて部屋の中に入ってきた。


 その少女を見た瞬間、ルーカスとアランの呼吸が一瞬止った。


 ――ああ、彼女だ。


 あの日、自分達が助けた(にえ)にされそうになった少女。

 涙でぐしゃぐしゃだった……、血の気の引いた顔は青白く、震える体は驚くほど冷えていて、弱々しくあまりにも(はかな)い姿しか見ていなかった二人は、あの少女が森で独り生活をしていると聞いて、ひどく心配して居ても立ってもいられなかった。


 しかし、いま目の前にいる彼女はどうだろう。

 あの時とは打って変わって、少女はとても生気に(あふ)れていた。ひと目見ただけでも、元気そうなのが分かって安心したと同時に、普通の少女らしく、その生き生きとした可愛らしさに目を奪われた。二人とも。


 ところが、一方ルルはというと、思わぬ場面を見てしまったため顔を赤らめると、すぐさま寝室から飛び出し、開けた扉を再びパタンと閉めた。

 今まで、男性同士であんなに仲の良い場面を見たことがなかった。

 王都ではあれくらい普通なのだろうか。何やら間の悪い時に声を掛けてしまったのかと思い、よく状況は分からなかったが、取り()えず謝った。


「あ、あの、ごめんなさい! お邪魔しました」


 少女のその反応に、二人は今の状況が他人にどう見られるか、想像し顔を青くした。ルーカスが渾身(こんしん)の力を()(しぼ)り、アランを元の位置に押しのけると、必至で扉の向こうに消えた少女を呼び戻す。


「ま、待って! 違う、違うから!」


勘違(かんちが)いしないでくれ! こ、これは、体が動かなくて……」


 アランも力の限り弁明した。その言葉に、ルルは二人の体の痺れが心配になっていたので、もう一度おそるおそる寝室の扉を開けた。


 まださっきの状態だったらどうしようと思ったが、普通に二人並んで寝ているのを確認すると、すぐに駆け寄って二人の(ひたい)に順番に、手を乗せて熱をはかる。さっきは少し熱っぽかったのだが、それ以上上がらなかったようだった。


「熱はないようです。良かった」


 しかし、その(やわ)らかな手の感触に、二人は息を飲むとともにカッと身体に熱を帯びたのを、彼女に知られないかひやひやしていた。


 あの時の今にも消えてしまいそうなくらい儚い印象の少女が、今度は自分達をおそらく助けてくれて、介抱(かいほう)までしてくれている。記憶の中の少女とあまりにもかけ離れた、今の活発的な彼女に思わずどぎまぎしてしまう。

 すると、二人の顔色や様子を見ていたルルがまた話し掛けてきた。


「でも、まだ痺れがあるみたいなので、この解毒薬を……さっき、飲ませようとしたんですけど、寝ていたので上手くいかなくて、いま飲めそうですか?」


 そう聞かれて、言葉を失っていた二人は、大人しく同時に(うなず)いた。

 すると、ルルはパッと顔を輝かせて、まずはベッドの手前に寝ていたルーカスの後ろ頭に手を()え少し浮かせると、もう片方の手に持ったスプーンで薬を(すく)い口に運ぶ。


「ちょっと、苦いかも知れませんが、我慢して飲んでくださいね」


 しかし、突然ぐっと距離の近くなった少女の感触や匂い。この状況に何やら、薬を飲むどころではなくなるほど焦ったルーカスだったが、目の前の彼女が無意識に自身の口まで開けながら「あ〜ん」という仕草をするものだから、つられてルーカスも口を開け、むせながらもなんとか飲み終える。確かに、薬は苦かった。

 けれど、むせた理由はそれだけではなかったのかもしれない。


 そして、今度はルーカスの奥にいるアランにも、同じように薬を飲ませようとして、身を乗り出した。


 しかし、その時のルルは薬を飲ませることに集中していて、気がついていなかった。ちょうどルーカスの目の前に、自分の胸が迫っていたことを。

 そんなルーカスも、必至で自分達を介抱してくれる少女に対して、よこしまな考えを起こさないようにと思っていても、己の目を閉じる事は出来なかった。



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