森での再会 5
最初に目が覚めたのは、ルーカスだった。
「っ、ここは……どこだ?」
まだ、意識は少しはっきりせずぼんやりとしながら、薄暗くてよく分らないが、見覚えのない天上にとりあえず外でない事は分かった。
(どこかの家の中……ということは、助かったのか?)
少し目が慣れると、今度は部屋の様子を伺う。ぐるりと見回していたルーカスの目に、先程のオオカミが、扉の前で寝そべっている姿が飛び込んできた。
ハッと警戒心が呼び覚まされ、体を起こそうとしたが、手足が思うように動かなかった。
それでも必至で、起き上がろうとしていると、その物音にルーカスが起きた事に気がついたオオカミは、ピクリと耳を動かすとノッソリ起き上がり、ひと吠えした。
ルーカスの緊張が、一気に高まった。
――ヴィリー、どうしたの?
しかし、家の外の方から、そんな緊張感を一瞬にして壊すような、まるで鈴が転がるような可愛らしい声がルーカスの耳をくすぐる。
すると、オオカミは目を覚ましたルーカスには目もくれずに、声の主のところへ行くのか器用に扉を開け、部屋から出て行った。
呆気にとられていたが、とりあえず襲う意思はないらしい。
ホッと胸をなでおろすと、すぐそばでうめき声が聞こえたので、ほんの少し首を動かして、横を見ると素っ裸のアランが横たわっていた。
「わぁぁぁっ! 何でアランが、裸で俺の横に寝てんの?」
「それは、こっち、の台詞だ……ルーカス」
「いやいや、お前はライアンで慣れてるかもしんないけど、俺そっちの趣味ないから」
「慣れ、てる……わけないだろ! そんな事は、一度も……断じて、ない! てめー、それ以上言う、な……っ」
ついでに言うと、ルーカスも素っ裸である。
――良かった。
もちろん、アランをからかうための冗談だったが、一応、辛うじて下着は履いていることを、確認してルーカスは思わず安堵した。
アランも思うように体を動かせないようだったが、目が覚めたばかりで息切れを起こしながらも、口の方は達者だったのでひとまず安心するルーカスだった。
「おい……ルーカス、気分が悪いから離れろ」
「無理、言うな。俺だって体が動かないんだよ」
「俺は、ベッドで、男と裸で寝る趣味はない!」
「俺も、んな趣味ねーよ!」
「ルーカス、ここは……あれから、どうなった?」
最初こそ、途切れ途切れにだったが、会話をしているうちにだんだんと口調も、意識もはっきりしてきた様子でアランがルーカスに尋ねてきた。
「……わかんねぇ。俺もさっき目が覚めたばっかりで、ベッドの上だし、正直助かったと思ったけど……」
「けど、なんだ?」
「お前が起きる前に、あそこの扉あたりに、あのオオカミがいた」
「オオカミが……、っ!」
先程の出来事を、アランに話しながらルーカスは、ここはもしかして……。と考えをめぐらせながらもう一度部屋の中を見回していた。
すると、アランは何とか体を起こそうと、もぞもぞ動き出した。ベッドの位置の関係で、アランの横は壁になっており、仕方ないので反対側のルーカスを乗り越えて、ベッドから降りようとしていたのだ。
「お、おい、アラン、無理に動くなっ! お前の肌が、ちょいちょい当たって、マジで吐きそうだ……」
「うるさい。オオカミが、いるとなれば、呑気に、寝てる場合じゃないだろっ!」
アランは荒い息を吐き出しながら、何とか気合で体を起こすと、ルーカスを乗り越えようと覆いかぶさるような体制になったところで、もう一度呼吸を整える。
「アラン、いくらお前でも俺、男は無理だから」
「気が散る。少し、黙ってろ」
何やら誤解されそうな台詞だった。こんな事が知れたら、王都で淑女の皆様にまた変な噂にされてしまいそうだなと、くだらない心配をするルーカス。
その時だった。部屋の扉がノックされる。
その音に驚き、アランの腕の力が一瞬抜けてしまったのか、覆いかぶさっていた体制のままルーカスの上に倒れこんだ。
「ぐぇっ〜、お、重い……! 苦しい〜」
アランの体が伸し掛かり、思わずカエルが潰れたような声を出すルーカス。
日頃鍛えている分それなりに筋肉はついているので、見た目より重かったし、何より密着した男の肌の感触に、ルーカスはもちろんアランも思わず鳥肌が立ってしまった。




