森に暮らす少女 3
三ヶ月ほど前、ルルがそれまで暮らしていたルグミール村で、ある騒動が巻き起こった。
運悪くそれに巻き込まれてしまったルルは、体にも心にも大きな傷を負ってしまったのだ……。
けれど、そんなルルに追い打ちをかけるように、事情をよく知らない村人達から噴出した心ない噂が、何の責もない彼女をさらに追い詰めていった。
非難の矛先がルルひとりに向けられると、次第に少女は住み慣れた村でその居場所をなくしていった。
そしてルルは、なかば追われるような形でこの森に移り住むことになったのだった。
それでも一生森に引きこもって、暮らすわけにもいかないことはルルも分かってはいる。
人はひとりでは、生きていけない。
この森の生活であらためてそれを理解することになった。
こうやって自分を心配してくれる村の長や親友が、薬を買い取ってくれたり、物々交換と言いつつそれ以上の礼品を差し入れしてくれることで、何とかここでの生活が成り立っている有り様なのだ。
いつか村人たちのルルへの噂の誤解が解けれれば、いずれまたルグミール村に戻って普通に暮らせる日を望んでいる。
実際、ここでの暮らすことを相談した時、最後までそれに反対していた村の長と親友にはそう言って、何とか説得したのだった。
けれど……。
「ねぇ、ヴィリー……。もうこのまま、ずっと森で一緒に暮らそうか?」
ふと口をついて出た言葉に、ルルはハッとしてしまった。
結局のところルルは二人には前向きに考えているよう取り繕って、ここに逃げ込んだだけだった。
村の間に出来た亀裂を唯一繋ぎ止めてくれている二人に対して、そう思ってしまうことに申し訳ないという気持ちはあれど……。
それも今のルルの本音であった。
そんな少女の言葉にヴィリーは一旦立ち上がると、まるで「いいよ」と言ってくれているかのように、何度かその頭をルルの身体に擦り付け、再びルルの足元に今度はぴったりと隙間なくうずくまるのであった。
揺れ動くその心に寄り添うような愛犬のその仕草に、ルルの目頭が熱くなる……。
やっと取り戻した平穏な日々――。
一人と一匹で慎ましく暮らすには今のところ問題のない森の生活は、ルルに深い安堵をもたらしてくれていた。
もう、あの出来事は思い出したくない。
不便だからこそ生きることで精一杯な森の生活の方が、余計な事を考えずに済む。
このまま、ここでヴィリーとひっそり暮らせるならそれでいい、自分のことはもうそっとしておいて欲しかった。
森の中で少女は懸命に生きながらも、深く傷ついた心はもうぎりぎりのところまで来ていた。
――このまま静かに、暮らしたい。
それは、少女のささやかでとても切ない願いであった……。




