森での再会 2
しかし、森の中は想像以上に、歩きづらかった。
密集した茂みを抜け視界は良くなったが、蔦や木の根で足をとられそうになる。
警備隊訓練をこなしている自分達でもそうなのだから、村の者がもしも森へ入ったとしても、すぐに音を上げてしまうだろう。地面を見ながら、かすかに残る痕跡を追っているが何とも頼りない。
こんな森に、あの子がひとり暮らしている……。
「……もっと早く様子を見に来るべきだったな。アラン」
「それをお前が言うか、ルーカス! 俺は報告が終われば、すぐにでもあの村に戻るつもりだったんだ。それを、無理矢理止めたのはお前だろ!」
ルーカスの言葉に、王都での手続きの日々に我慢出来なくなり、ルグミール村へ戻ろうとするのを止められ一悶着起こした時の事を思い出し、苛立ったように返事をするアラン。
「待て待て、俺一人で要請や申請の手続きなんてしてたら、時間がかかって村はもっと酷くなってたかもしれないだろ?」
「しかし! その間にあの子はこんな森に追いやられたんだぞ! お前のせいだからなルーカス」
「何で俺のせいなんだよ! 大体、大の男が仕事放り出して、いきなりお見舞いに来たとなれば、あの子が困ることくらい分かるだろ……」
「そんなことは……ない。あの子だったら、受け入れてくれるはず」
「気持ち悪っ! あの子の事まだ何にも知しらない内に、なに自分の都合のいいように解釈してんだよ。そんなんだからいくら顔が良くてもモテないんだぞ。あ、でもお前にはライアンがいたっけ」
アランの暴走思考に呆れたルーカスが、思わずつっこみを入れからかうようにそう言うと、アランはものすごい剣幕で怒鳴ってきた。
「なんだとっ! もういっぺん言ってみろ、ルーカス!」
「知らないのか? アランとライアンは禁断の愛を誓い合った仲だって、今や王都の淑女の間で噂になっていて、注目の的なってるぞ」
「な、な、なん、だと……」
さっきの剣幕はどこへやら、ルーカスから知らされた事実に、思わず動揺するアラン。
さっきまで少女を心配していたのに、どんどん話が脱線していく二人の会話。
お互い譲らず、なおも減らず口を叩き合っていると、急に周りの空気が張り詰めたのを感じ取った。
軽口を交わしながらも、決して警戒は怠らずに歩いていたが、気配を消していたのか、いつの間にか数十メートル先に現れていた、大きなオオカミがこちらにひたりと視線を合わせていた。
――標的にされている。
オオカミの殺気を感じ取ったアランはもちろん、後方にいたルーカスも剣を静かに抜く。それが合図だったかのように、オオカミが木々の間をスルスル掻い潜り、二人へ向かってくる。仕方ないが馬は置いていくことにした。
慣れない森のなか思うように距離を取れない二人、しかも、オオカミは馬には見向きせず二人を追い立てる。追いつこうと思えば一気に追いつけるはずなのに、オオカミは一定の距離を保ちルーカス達を追い回す。最初に感じた殺気はなりを潜めていたが、かわりに狩りを楽しんでいるつもりなのだろうか。
このまま逃げまわっていては、本当に森の中で遭難しかねない。仕方ないと立ち止まり、反撃に出ようと目配せで合図をした二人だったが、その瞬間アランが膝をついた。
「おいっ、どうしたアラン?」
ルーカスはオオカミから決して視線は逸らさずに、横でうずくまるアランの腕を引っ張り上げようとしたが、そのルーカスも急に力が入らなくなり、同じく膝をついてしまった。
体が動かない。
何とかしなければと思いながらもルーカスは、ついに堪え切れずアランとともにその場に倒れこんだ。その瞬間、ふと仄かに甘い花の香りがしている事に気がついた。
すると、遠のく意識の端っこで、あのオオカミの遠吠えが聞こえた。
(仲間を呼んでいるのか……)
そう思ったがどうすることも出来ずルーカスは、そのまま意識を手離した。




