森へ 3
「なんじゃと、あの森に住む!?」
「うん。おじいちゃん、私があの森で生活する事を許して欲しいの」
両親の建てた森の中にある家で生活する。
ルルはヴィリーと出会い、あの家に入ってから強くここに住みたいと思ったのだ。そう考えると、ルルは居ても立ってもいられなくなって、すぐさま村の長へ相談に行った。
「いかん、いかん! いくら何でもあの森の中で一人で暮らすなど、許可できる訳がなかろう! ……確かに、ルルにとって今この村は居心地が悪かろう。すまないと思っとる。じゃがのう、儂がなんとか皆を説得するから、そんな……寂しい所で住むなどと、悲しいことを言わんでくれ……」
村の長の心配も、言いたい事も分かっている。
ルルがこの村を居心地悪く感じていることもバレていた。しかし、森の家はルルにとって決して寂しいだけの場所ではないのだ。暖かい想い出のつまった家でもある。その事をもう一度伝えたうえで、ルルはこうも言った。
「私も別に一生あそこに住もうって思ってないよ。ルグミール村でみんなとまた前みたいに暮らしたい。でも、今のままは、やっぱり良くないと思うの。一旦距離を置いて、少し落ち着いて、それからまた徐々に修復できればって……」
それを聞いた村の長はそれでも反対した。
その場には、ルルから相談があると聞いて、事情を知る大人達も一緒に集まって話を聞いていた。
酷い仕打ちをした自分達ではなく、なぜ辛い目にあったルルの方が、村を追い出されるような形になってしまうのか、あらためて自分達の仕出かしたどれだけ酷いことか思い知らされた。
そして、その罪がより一層重くなったような気がした。
しかし、ルルの言う事も、心のどこかでは納得もしていた。
ただ、やはりこの状況をおさめる事が出来ない自分達の不甲斐なさを痛感し、なかなかそれを認める事が出来なかった。どの口がと言われても仕方ないが、心配なものは心配だった。
それでも、ルルの決心は揺るがなかった。
猛反対されても、それが自分の身を案じてくれているからだと思えば、嬉しかった。
だから少しでも、心配を取り除くために、とりあえずすぐに引っ越す事も出来ないので、掃除をしに行くと言って半日、生活用品を運ぶと言って一日、家の補強をすると言って三日、という感じで必要最低限の生活が出来るように家を整え始め、森から無事に帰ってこれるという姿も見せながら、出入りする期間を徐々に延ばしていった。そして、そんなルルの熱意に次第に皆も折れていった。
けれど、ロッティとニコルだけは最後まで反対し続けた。
「どうして、ルルが村から出なくちゃ行けないの? ルルを悪く言う奴は私がぶっとばしてやるから!」
「そうだよ! 姉ちゃん、強いから大丈夫だよ。それよりもう勝手にいなくならないって言っただろ?」
「心配してくれてありがとうロッティ、ニコル。でも、本当に大丈夫だから」
表向きルルは、薬草の勉強のため村の長の知り合いがいる隣村で、しばらく下宿するという事にしたのだった。森へ住むことを知っているのは、長と事情を知る大人達と、そしてロッティとニコルだけ。
贄の件は知らない姉弟だけど、この二人には森へ行くことだけは知らせた。
「ニコル、ごめんね。でも、いなくなるわけじゃないから、しばらくの間だけ我慢してくれるかな? お願い。それに森の手前に郵便箱を置いておくから、手紙をちょうだい。ニコルへの返事は欠かさず書くわ」
ルルは、いつもはふんわりの癖に、どこか頑固な所があり、こういう時は絶対折れないという事を知っている姉弟は、完全に納得したわけではなかったが、最後には笑顔で送り出してくれた。
こうしてルルは、森の中の家に移り住む事になったのだった。




