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その後の出来事 3



「あははっ、さすが姉ちゃん!」


「もう……ニコルったら、笑い事じゃないよ。ロッティにあれほど、ちょっとだけって言ったのに、こんなに、こ〜んなに注いでくるんだよ。たくさん食べないと、元気になれないって……」


「良いじゃん。だって、ルルの顔色もだいぶ良くなったし、たまには姉ちゃんの強引すぎるお節介も役に立つもんだな」


 あれから数日、ルルの家で看病のため寝泊まりをしてくれていたロッティは、何とか両親と仲直りをし、日中は家の食堂を手伝いに行くようになった。そしてその間、姉のかわりに今度は弟のニコルが側にいてくれるようになった。


「ねぇ、ニコル。私もだいぶ良くなったし、遊びに行ってもいいのよ?」


「バレたら姉ちゃんにどやされる」


「ロッティには、私から言っておくわ」


 ルルはそう言ったが、ニコルとの他愛(たあい)ないお喋りをするのは、今のルルにはとても安らいだ時間となっていた。ついこの間まで、そっけない態度ばかりだったニコルも文句も言わず、毎日ルルとの会話に付き合ってくれる。


 しかし、遊びたいざかりなのだ。

 自分のせいで友達と外に行きたいのを我慢しているのかもしれないと思っていた。


「……ふん。ルルがまた勝手にいなくならないように、見張ってるんだ」


「別に、いなくなったわけじゃ……」


「うるさい。今度……黙っていなくなったりしたら、許さないからな!」


「うん。分かった。ありがとう、ニコル。……ッゴホ、ゴホッ」


「ほら、おしゃべりは終わり。さっさと横になりなよ」


「フフッ、ニコルもちょっぴり、ロッティに似てきたね」


 ニコルのぶっきらぼうな優しさに成長を感じつつ、大人しく言う通りにするルル。

 言葉は乱暴でも丁寧に布団をかけてやると、ニコルは少し俯きながらもじもじしたあと、意を決して話はじめた。


「ルルはさ……姉ちゃんみたいに、ちょっと強引なやつと結婚したほうが、元気になれるから良いんだよ。がんばりすぎて、飯とかもすぐ抜いてるだろ? お、おれがもう少し……大きくなったら、ルルが、む、無理しなくてもいいように……」


 そこまで言って、思い切って顔を上げルルの方を見たが、肝心の人物はスゥスゥと寝息を立てていた。

 思わずがっくりしてしまう。いつも、こんな調子で大事なところで口ごもってしまったり、自分の間の悪さが嫌になるニコルであった。


 仕方なく本でも読もうかと思ったが、ふとルルの布団からはみ出した男物の上着に目を止める。そういえば村の長のところにいた時から、いつもこの服を肌身離さず持っていたなと思うと、誰の物かは分からないけれど、何となく面白く無い気がして、取り上げてみたがルルの手がしっかりとその服を握りしめていた。


 眠っているはずなのに、ぶんぶんと振り回しても一向に離す気配がない。ニコルは諦めてそのままにしておくことにして、あらためてルルの寝顔を眺めた。


 キョロキョロと辺りを見回しおそるおそる手を伸ばして、ルルの頭を撫でてみる。

 ハチミツ色のふわふわの髪の毛の感触に、胸が高鳴った。


 姉の親友で、自分がまだ赤ん坊の時から可愛がってくれた。気の強くてしっかり者の姉とは正反対の、いつもふんわりと優しいルル。

 年上のはずなのに、どこか抜けていて、目が離せなくて、昔一緒に遊んでいた時は泣き虫で、年下の自分のほうが時々彼女を慰めていたりもした。


 けれど、そんなルルが4年前から、一人でどんどん大人になっていってしまったのだ。

 ニコルは自分が置いてきぼりにされたような気がして、寂しさと焦りを感じていた。

 そして、端から見ても、心配になるくらい頑張るルルの力に少しでもなりたいと思い始めていた。けれど、ルルの前では自分はまだまだ子どもだといつも自覚させられて、そんな苛立ちに、ついつい生意気な態度をとってしまっていたのだ。


 ――いつか、きっと僕が……。


 まだ10歳の不器用な淡い恋心を胸に秘め、ルルの頭を撫でながら、無事で本当に良かったと心の底からニコルは思った。



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