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その後の出来事 2



 ルルは、儀式で警備隊の二人に助けられてから療養していた間の事を、あらためてロッティの口から聞いていた。


 ロッティが言うには、10日前、王都から来た警備隊の青年二人と村の長、そして数人の大人達が村の人々を集め、ルグミール村に水路を作る事になったという話をしたらしい。


 最初は、よく分らない事業を一方的に決めた事に難色を示していたが、説明を聞く内に、今回の干ばつの救援や、水路事業に関しても王都からの支援を約束してくれるとの事、そして何と言っても半永久的に水不足から解放されるという言葉に、村中が湧いたらしい。


 そのあと、取ってつけたように、雨乞いの儀式が中止されたことも発表されたけれど、みんなはすでに水路事業のほうに関心が向いていて、その事を深く気にする余裕はなかったようだ。


「その、警備隊の二人は?」


「水路事業の申請とか、救援物資の要請……何か色々報告しなきゃいけないからって、一旦王都に戻ったって聞いたわ」


 きっとその警備隊の二人というのが、自分を助けてくれたのだと思い、是非お礼を伝えたいルルだったが、今はこの村にはいないらしい。


「それにしても、ロッティはどうして私が、おじいちゃんの所にいるって分かったの?」


「あの時、その場にルルが居なかったから、早く水路の事を教えてあげようって、家に行ったけど留守にしてたみたいで……」


 ロッティが経緯を話し始めてくれた。

 ルルの家を訪ねたロッティだったが、肝心な親友の姿が見えなくて、その時は薬草の採取にでも行っているのだと思い(あきら)めて帰ったけれど、次の日も姿が見えなくて、何も言わずに数日家を明けるなんておかしいと思い、取り敢えず両親にその事を相談してみた。


 すると、何故か決まりの悪そうな顔をしながらも「ルルは数日で戻ってくるから大丈夫。心配することはない」と言うばかりだった。


 そんな言葉で納得できるロッティではない。それから粘り強く問い詰めると、両親が重い口を開いた。実は、ルルには秘かに雨乞いの儀式を手伝って貰っていて、その最中に体調を崩し倒れたと言うのだ。


 儀式の失敗が知られれば村は不安に(おちい)り、余計な混乱が起きてしまうかもしれない。幸い、タイミング良く水路事業の話が舞い込んできたので、儀式は中止ということにして、体調を崩したルルは、目立たないように今は村の長のところで療養していると聞かされたのだった。


「ルルが儀式の手伝いをしていたなんて、私知らなかったわ……」


 ロッティの言葉に、ルルは何も答えなかった。


 ルルは目覚めてからしばらくして、村の長から贄の件は、他の村人達には伏せる事を聞かされていた。

 事情を知る者と警備隊のルーカスとアランの間では、そういう取り決めをしてはいたが、事情が事情だ……ルルが「そんなのは許せない、真実を白日のもとに(さら)す」と言うのなら、それを止める権利はない。しかし、儀式の真実を知ったら村がどうなるか……。

 そう村の長から言われると、ルルとてそういった場合どういう事態になるか、少なからず想像できた。それに自分が贄にされたなどと知られたくない気持ちもあり、伏せたままの方が良いと思って了承した。


 その際、はじめからルルが儀式に関わっていた事自体も伏せようとしたが、まだルルの容体も不安定で、長期の不在に対して納得の行くような理由が考えつかなかったのだろう。ロッティの追求に耐え切れなくなった両親は、ここで下手な嘘をついても誤魔化しきれずに、余計に怪しまれるかもしれないと思い、仕方なく儀式を手伝っていたルルの体調が悪くなって、村の長の所で休んでいるというふうに答えたらしい。


「それで、すぐにお見舞いに行こうとしたら、それはダメだって……。何で? って聞いても教えてくれなくて、でも10日経ってもルルの姿が見えないでしょ? 心配になって……」


 それから、同じく儀式に参加していた両親との口論が絶えなくなったらしい。

 ロッティは両親の説明に一応は納得したが、やっぱり少なからず不審を抱いていたし、いつまで経っても、ルルの状態が分らなくて気を揉んでいたけれど、ついに我慢できなくなり、ルルが少しでも安心できるように家に連れて帰り、ロッティが自分で看病すると啖呵(たんか)を切って、村の長の家に乗り込んできたというのだ。


「ひどいわ、父さんも母さんも。ルルに儀式を手伝わせたうえに、具合が悪くなって倒れた事を隠すようなことして……」


「何とかしようと必至だったのよ。水路事業の事があったから、みんなまだそんなに気にしてないかもしれないけれど、本来、雨乞いの儀式が中止になったなんて、今の村の状態を考えたら、なかなか口に出来ることじゃないわ」


「でも……」


「ロッティ、おばさんやおじさんを責めないであげて。ただこの村の……あなたのこれからが心配だったのよ」


 ロッティは、その儀式で両親がルルに何をしようとしたのか知らない。

 本当の事を知ったらどうなるかと、想像するだけで怖くてたまらなかった。この強くて優しい大好きな親友をルルはとても大切に思っている。だからこそ、彼女の仲の良い家族を壊したくなかった。


「ちゃんと仲直りしてね」


「ルル……」


「約束よ」


「うん……分かった。約束する」


 ロッティと指切りをすると、グゥとお腹が鳴った。ルルではなかった。


「今の、ロッティだよね?」


「えへへ。なんかルルの姿みて安心したら急に……。あ、カブのスープ作ったから食べる?」


「うん……。でも、まだあんまり食べれないから、ちょっとだけね」


「分かってるって。いま持ってくるね」


「ロッティ。……本当に『ちょっと』だけだからね」


「まかせといて!」


「ちょっとだけだからね〜!」


 はっきり言っておかないと、ロッティは山盛りついできそうな勢いだったので、先手を打ったつもりだったけれど、やがて器になみなみと注がれたスープを目の前に差し出されて、無駄(むだ)な努力に終わった事を知った。



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