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警備隊のふたり 3



「今回の件についての、とりあえず事情は分かりました。そのうえで、少しお話があるですが」


 先程までの怒りをおさめ、気を取り直したルーカスがおもむろに切り出した。


「話ですか? 一体何の……」


「ああ、実は今回調査を王都に報告後、あらためて正式にある事業に対する説明と要請をする手筈になっていたが……。この状況なので私から手短に説明しますが……。しかし、今のあなた方に、拒否権があるとは思わないでいただきたい」


 アランがその端正な顔でニヤリと笑うと、その場にいた村人達が思わずごくりと息を飲んだ。


「おい、こら。誤解をうむから、その顔はやめろアラン」


 ルーカスの言葉に、それでもアランはやめなかった。


 村の長をはじめ儀式に関わった村人達は、当然罰は受ける覚悟だったが、これからどういたぶってやろうか、そんな表情にしか見えなかったのだ。そんなアランの不敵な笑みに背筋が凍った。


 しかし、アランから語られた内容は意外なものだった。


「水路事業?」


「ああ、王都ではすでに活用されている。これが上手く行けば、水に困ることもなくなり、もういたいけな少女を生け贄にする事もない」


「っ……。し、しかし、そんな事が実際に……」


 アランのチクリとした嫌味が端々に散りばめられた水路事業の提案と説明を、最初は大人しく聞いていたが、岩山が水瓶の役割を果たし、雨が少ないこの土地でも地下水は豊富である事に、当の村人は今ひとつ理解が及ばなかった。

 それなのに、太古に失われたという魔法への信仰心が厚いというのも、これまた不思議な事ではあった。


「確かに、肝心の水脈を探すのは容易(ようい)な事ではない。水路を掘るのも大掛かりな事業だろう。多くの歳月を費やす事になる。しかし、王都から水路事業の指導者の派遣や、その間の支援も申請すれば、受けられるだろう」


「今その水路事業を広めようと、王都からまず警備隊が各地方へ調査に行ってるんだけど、もう田舎の人達は頭が固くて、話すら聞いてくれないんですよね。で、ここでルグミール村がこのあたり一帯の先駆けとして、水路事業を受け入れ、成功させれば、他も話くらいは聞いてくれるようになると思うんだけど。どうですか? 村の長殿」


「といっても、先ほどの言った通り、あなた方はこれを受け入れる以外の選択肢はないのだがな」


 アランとルーカスが代わる代わる説明してくれた話に、最初はその大掛かりな未知の事業に戸惑っていた村人達だが、建設には王都からの費用支援を受けられることや、そしてそれとは別に、今回の干ばつ被害の救援物資も受けられるとの事で、全面的に賛同することにした。


 こうして、話し合いは思わぬ方向へと進み、ルグミール村で水路事業が始まる事になった。


 それからルーカスとアランは、せめてルルが目を覚ました姿を見たかったが、一晩経っても起きる気配がなかった。ルルをこのまま残していくのは気掛かりだったが、救援物資の要請と水路事業受諾の報告が、先だと判断してひとまず王都へ戻ることにした。


「あの子、大丈夫かな?」


「だから、俺が残ると言っただろ」


 馬に乗りながら、ふとルーカスが呟くと、怒ったようにアランが言い返した。


「いや……だって、俺一人じゃ、報告やら申請やら時間掛かっちまうだろ」


 王都へ戻るにあたって、アランは自分がルグミール村に残って、少女の目覚めを待つと言って聞かなかった。しかし、ルーカス一人では色々と時間も掛かる。村の逼迫した状況を考えて、最後にはアランもしぶしぶ戻る事に決めたのだった。


 あまりにも儚く映ったのか、助けた少女の姿が、ルーカスとアランの心に何故かいつまでも残っていて、妙に気になって仕方がなかった。


「……」


「……」


「なあ、アラン。あの子の笑顔、すっげー可愛かったよな」


「ああ、一刻も早く元気になるといいな」


 そう言うと、少女のこれからを思って、ほんの少しでも早くルグミール村の現状を打破するために、ぎゅっと手綱を握って、王都へと馬を走らせたのだった。



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