警備隊のふたり 2
ルーカスとアランは自分達の少女救助の遅さに対して、後悔の念に襲われながらも、村人達の少女に対するあまりの仕打ちに、怒りを覚えた。
しかも、4年前の流行り病の治療にあたったのが少女の両親で、何とか村は最小限の被害にとどめられたが、それが元で亡くなったと聞いた。
よりにもよって、そんな命の恩人とも呼べるべき娘を……。
「ふざけんな! 4年前も今回も、犠牲を出す前に何故、助けを求めなかった? 声を上げていれば王都からの救済措置が受けられるんだ。あんな……夢や未来もこれからっていう少女の命を犠牲にして、本当に村が救われるって言えるのかよ!」
意外にも最初に怒りを表したのは、緊迫した状況でも軽口をたたき、どこか飄々とした雰囲気を持つルーカスの方だった。彼の剣幕に村人達は、ぐっと押し黙る。
「ルーカス。落ち着け」
すっかり先を越された、アランが逆に止めに入った。
村の閉鎖的な環境と、魔法への信仰が今回は災いしていたのだろう。
地方のルグミールように小さな村が、王都に救援要請などという大それた事を思いつく前に、怪しいと思いながらも、古くから伝承された儀式に縋ってしまうのも、無理らしからぬものかもしれない。
それに、儀式の時の彼らを見ても、すでに冷静な判断など下せる状態ではなかったことが伺えた。
4年前もそうだ……。流行り病に襲われた村に、駆けつけてくれる医者がいるのかと聞かれれば、正直王国からの命令がなければ、分からないところでもある。
きっと心のどこかにそんな諦めもあって、目の前の光景しか見えず、治療にあたった薬師に全てを委ねてしまう事態に陥ったのかもしれない。
しかし、だからと言って今回の贄の件は許される事ではない。脳裏に、儚げな少女の顔がよぎる。先ほどルーカスを止めたものの、アランもまた静かに怒りをみなぎらせていた。
二人の怒気に気圧された村人達は、青ざめた顔で小さく震えながら再び涙を流した。
「とにかく今回の一連の事情はわかった。この事は……」
「頼みます! このことは他の者には、内密にしてくだされ」
ほんの少し怒りを押し込め、務めて落ち着いた声音でアランが何か言おうとすると、村の長は突然床に手をつき、がばりと頭をさげた。
「……お二人には保身と思われるかもしれんが、ここにいる者達以外は何も知らぬのじゃ。罪は我々が全て背負っていく、罰も当然受けよう。だから……ルルのためにも、お願い申し上げる」
「ルル?」
「あの子の名前じゃ……。今回の件が公になれば、疲弊しきったこの状態でどんな混乱が起きるか分からぬ。害そうとした我々が言えることではないが、これからもルルがこの村で普通に暮らせるように……どうか。どうか……」
確かに村の状況とこれからを考えたら、これ以上無用な混乱は避けたい。
ルルがこの村で普通に過ごしていくなら尚更の事である。
その件に関しては王都への報告はするが、ルグミール村においてはひとまず、村の長の希望通り、他の村人達には伏せる事を二人は了承した。
その二人の判断に、村の長と数人の村人達は、ルルのこれからの生活に尽力する事を誓ったのだった。




