そして森の少女は、幸せに包まれる 13
「おわっ……!!!」
アランが斜面に差し掛かった時、ちょうど地面から顔を出していた樹の根に足を取られてしまい、前方につんのめってしまった。
そこに背中のリュックの重みに遠心力が加わり、思いっ切りダイブする形になった拍子にリュックの中身が飛び出して、いくつかの道具がルルに直撃した。
「わゎっ……!?」
鋭利なものこそなかったが、その衝撃にルルも思わず体勢を崩すとそのまま後ろによろめいてしまった。
ぶつかる……っ!
ルルは背後の蔦の壁に、自分の背中がぶつかる瞬間を想像し身構えた。
次の瞬間、普通なら硬い衝撃が走るはずなのだが……。
ところが、ルルが蔦の密集に倒れ込むと、思っていたのとは違う感触を受けた。
先程までは手を差し込むすき間も難しいほど複雑に絡み合っていた蔦が緩み、ルルの衝撃を和らげるように包み込む。
しかし、打ち付けられるような衝撃を免れたのも束の間、ルルの体はそのまま蔦の中へと飲み込まれていく。
アランは倒れ込みながらも這うようにして必死にルルへ手を伸ばしたが、ほんの寸前のところで指先がかろうじて掠っただけで、あっという間にルルの姿は蔦の向こう側へと消えていった。
「ルル……? ルルっ、ルルーーーーっ……!!!」
アランは泥まみれになるのも構わず、這いずり転がるようにしてルルが消えた場所に辿り着くと、懸命に蔦を掻き分けた。
しかし、ルルを飲み込んだのが嘘のように、蔦はまた元のように複雑に絡み合い行く手を阻む。
「くそっ……! ルルっ! ルル……!」
それでもアランは何度もルルの名を呼びながら、素手で掻き分けるも……。
一本一本は細くとも、弾力性があり何十本も重なり合っているそれに為す術もなく、アランの爪は血が滲んでいた。
「アラン、落ち着け……!」
ルーカスも一歩遅れてその場に着くと、闇雲に蔦を毟るアランをたしなめた。
「落ち着いてられるかっ……。ルルが、ルルが……」
ルーカスの言葉を無視し、なおも傷ついた爪で蔦を掻きむしろうとするアランをやむを得ず後ろから羽交い締めにして動きを止めた。
「離せっ……! 俺の、せいで……ルルが」
「アラン。アラン……! わかったから、落ち着け。それ以上ケガをすると、ルルが悲しむ……」
ルーカスの拘束に必死に藻掻いていたアランも、その呼び掛けにふと動きを止めた。
「っ……すまない! ルーカス……俺の不注意で……」
自責の念にかられ声を振り絞るアランに、ルーカスは努めて冷静に話しかける。
「大丈夫だ……アラン。この向こうにルルがいるってことは、分かっているんだ。きっとヴィリーも一緒だろう。きっとルルは無事だ」
ルーカスとて心臓が押し潰されそうな痛みをぐっとこらえ、自分にもそう言い聞かすように、うなだれるアランに声をかけた。。
そうして少しの間アランを休ませ、かわりルーカスはその周辺を探り始めると、ほどなくして先ほどヴィリーが潜り込むために地面を掘り起こした形跡を見つける。
「ここを取っ掛かりにすれば、抜けられるかもしれないな」
するとココがルーカスに尋ねた。
「応援を呼びますか?」
その問いかけにルーカスは逡巡する。
だが、状況的に見て、この先が俺たちの目指していた場所だろうという予感は薄々している。
「いえ、たぶん俺達の終着点はこの先だと思います。確かに、人手は欲しいところですが、今は呼びに行く時間の方が惜しい。力仕事ですが、ココ殿にも手伝ってもらいますよ」
そう言うとルーカスは散らばった道具を集めたところで、アランを見やる。
「アラン、そろそろいけるか?」
返事こそなかったがアランは静かに立ち上がると、道具を手にとってそれに向き合うのを見て、ルーカスもそれに習った。
「やっぱり、ライアンを連れてくればよかったか?」
「これくらい、俺達で充分だろ」
ルーカスの軽口に、アランはひとつ息を吐いていつもの強気を取り戻すとそう答えた。