そして森の少女は、幸せに包まれる 12
ルルのお腹の虫に催促されたので、少し早いがお昼にすることに。
ただ、この薄暗さはしかたないにしても、せめて腰を落ち着けられるような少し開けた場所がないか探すことにした。
「その……なんだ。緊張していたから、そのぶんお腹が空くのも早かったんだろう……うん! それは、元気な証拠だ! だから、気にしなくても大丈夫だ」
「アラン様……」
よりにもよって、皆が深刻な話をしている時にお腹が鳴ってしまうなんて……と、いたたまれない気持ちでいっぱいのルルに、休憩場所を探しながらもアランが気を使ってあれこれ声をかけていた。
「そうですよ。ルルのおかげで深刻になりすぎてしまいそうな空気が和みました」
ココもアランの言葉を支援するようにそう言ってくれた。
「ココ様……」
そんな二人の気遣いに、ルルもいつまでもしょげている場合ではないと、気を取り直してアランとココに向き合った。
「アラン様もココ様も、ありがとうございます。そうですよね、きっとお腹もいっぱいになれば、さっきみたいに暗くならずに、前向きに考えられるようにもなりますよね」
何ともルルらしい健気な言葉に、アランがホッとしたのも束の間……。
「……私、暗かったですよね」
ココがぽつんとそうこぼした。
「……え?」
どうやら、ルルの「暗い」という言葉が、思いの外深くココの胸に刺さってしまったようだ……。
自分だけではなく相手にも前向きな気持ちにさせるような言葉を口にするルルに比べて、自分ときたら……。
ココはあらためて自分の言動を振り返ってみれば、何かにつけて“呪い”という言葉を持ち出してしまい……でもそれは皆の不安を煽るようなものだったのかもしれないと、思わず反省してしまった。
「……申し訳ありません」
自分としてはそんなつもりは毛頭なかったが、なまじ長い年月を生きてきた分、嫌なものもたくさん見てきたせいで、言葉のチョイスが後ろ向きなものにかたよっていたかもしれない……。
「いえ、そんな……ココ様は、ただ私たちにかわってあらゆる心配をしてくださっただけで……」
ルルの気遣いの言葉が、何とも身に染みる。
けれど、うっかり変なツボを押されたのか、ココの思考はずんどこ転がり落ちていく……。
故郷の村の中ではマシな部類だと思っていたが、そんな奢った心がいつのまにか自身も毒されていることに気がつけなかったのかもしれない。
「一部に長けた才能があっても、奇人、変人、狂人の類が多い村の人達の相手をしていたら、そりゃ自分だってどこか偏ったり、凝り固まってしまってもおかしくないですよね……」
けれど村では、なまじ地位や権限を持っている立場なので面と向かってそんな事を言われることもなかったし……。
「……私ときたら、そんなことも気付かず、自分は彼等と違って普通だと思い込んであれこれ、あれこれと……自分の考えをひけらかすような……恥ずかしい……」
そんなココを心配そうに見つめるルルだったが、ルーカスに後ろからポンと肩を叩かれた。
「少しの間、そっとしておこう……。大丈夫、しばらくしたら治る類のものだから」
そっとかけられた声に、ルルも静かにうなづいたのだった。
そうこうしているうちに、やがてルルはほんの少し下り斜面になっている先に蔦が密集して、まるで壁のようになっている部分を見つけた。
足場が悪いので気をつけながら斜面を下ると、ほんの少し蔦を掻き分けてみようと手を差し込もうとしたが複雑に絡まり合っているのか、手の引っ掛かりが浅くてうまくいかなかった。
するとヴィリーが、土が柔らかい部分を見つけ地面を掘り返すと、ほんの少し出来たすき間にグッと頭を突っ込み、そのまま身体を捩りながら器用に潜り込んでいった。
そして、ほんの少し間をおいて、ヴィリーの遠吠えが聞こえた。
きっと良い場所を見つけたのだろうと、ルルは振り返って三人に声をかけた。
「皆さん! ちょっとこちらに来てください。たぶん、ヴィリーが良い場所を見つけたみたいです」
ルルひとりでは無理でも、三人で力を合わせればどうにか蔦の壁も抜けられるだろうと考えていた。
「そうか。さすがヴィリーだな」
アランの感心したような言葉が聞こえたので、近づいてきたのがわかるとルルが声をかけた。
「あ、そこ少し斜面になっているので、足元に気をつけ……」
「おわっ……!!!」
しかし、ルルが注意を呼びかけたと同時に、突然アランから大声が上がった次の瞬間……。
ルルは何かにぶつかる衝撃に、思わず後ろによろめいてしまった。




