そして森の少女は、幸せに包まれる 10
ルル達一行は、更に森の奥へと進んでいった。
ヴィリーの先導のおかげで何とか進めていはいるが、何らかの事態に陥ってはぐれてしまった時のために、一定の間隔ごとに目印の紐を枝に結んでいっていた。
アランとルーカスも当初自分達だけでも森の家に辿り着けるようそうしようとも思ったが、それを断念した理由のひとつに、ヴィリーが番犬がわりにいると言っても、少女ひとり暮らしている家まで道標をつけていくのも、万が一を思うと危険だと判断してのことだった。
しかし……。
「おや、これは先程結んだ、紐ではないでしょうか?」
ふと右斜め前方に、目印にと結んでいた紐が解け落ちているのをココが見つけたので、一旦立ち止まることになった。
「何だ? もしかして、同じ所をぐるっと回ってきたってことか……」
アランはそう言いながら辺りを見渡したが、薄暗い景色では区別はつかなかった。
「いいえ。これは結んだ場所ではありません……」
ルルがやけに言い切ったように発言したので、驚く三人。
「分かるのか? ルル」
ルーカスの問いに、ルルはやや困惑しながらも答える。
「説明するのは難しいけれど……。そうだよね? ヴィリー」
すると、ルルの言葉にまるで同意するかのようにヴィリーも頷いた。
「それにこの紐はところどころ汚れが付着していますし……」
「ふむ……」
「まさか、だろ……?」
ルルの指摘通りの状態の紐を前にしても、いまだ信じられないといった感じのアランだった。
もしかしたら、森の小動物が引っ掛けてしまい偶然こうなった可能性もある。
それでも……。
「ずっと、不思議に思っていたことだが……。俺達が森に通うようになっても、いつまでも俺とアランだけではルルの家に辿りつけないでいたことを考えれば、何かしら他の原因があってもおかしくないというだけだ」
自分でも考え過ぎだと思いながらも、ぽつりとそうこぼすルーカス。
しかし、似たような光景が広がる森の景色でも、しばらくすれば何となく感覚を掴んでくるものだが、そこへやたら蔦が伸びてきてせっかく慣れてきた光景を一変してしまうのだ。
これが迷わせる原因のひとつなのかもしれないと……。
それは自然の摂理と言われればその通りなのだが、それにしても特にここ最近この蔦の成長は少し早いような気がしていた。
しかし、それはただの推論でまだ何の確証もなく、ひとまずルーカスは思考を切り上げ、ルルの手からその紐を受け取ると、再度目印として結ぶために近くにあった手頃な枝に近づこうと一歩踏み出した時だった。
「ルーカス様、待って……!」
何かに気がついたルルが、慌てて腕を引っ張って引き止めた。
「おわっ……!」
バランスを崩しそうになったルーカスだが、何とか踏みとどまる。
「あ、急に、ごめんなさい……」
「いや、それより、どうかしたか?」
「ルーカス様、あれを……」
薄暗い中、ルルが指差した方向に目を凝らすと……。
「あれは、俺達がこの森に来たときの……」
そこには、ちょうど自分達の顔の高さと同じぐらいの位置に、蔦に絡まった小さな白い花があった。
それは、ルーカスとアランがルルを訪ね初めてこの森にやってきた時、ヴィリーの策にハマった痺れ作用を起こす植物だった。
「危なかった……。うかつに触れるとまた倒れてしまうところだった。ありがとう、ルル」
「いえ。この花は普段、地面に這うように低い位置に咲きます。バタバタと走れば花粉が舞って危険をともなう場合もありますが、静かに歩いていれば避けられるものでもあります。けれど、これでは気付かず顔に当たってもおかしくなかったと思います。もしかしたら、絡まってしまったまま伸びる蔦に巻き込まれて、この位置まで……」
ルルがそこまで説明すると、その場に沈黙が降りた。
ココから聞かされた『森のおともだち』に隠された内容が頭を過る。
まさか、本当に森の妖精の呪いみたいなものが存在するのか……。
いよいよ、これまでの認識を改めなければいけないのかもしれないと思うルーカス達だったが、いつまでも立ち止まって考え込んでいるわけにもいかない。
ルーカスとアランは互いに顔を見合わせ気を引き締めなおすと、ルルとココに出発を促した。




