そして森の少女は、幸せに包まれる 6
考えてみれば、ルルは至ってシンプルな答えに行き着いた。
言い伝えによる儀式や生け贄など、色々な要素がごちゃ混ぜになって無意識にそれらを前提に難しく考え過ぎていたのかもしれない。
「私、この森で暮らしはじめてから、自家菜園で野菜を作ったり、山菜を摘んだりしながら自給自足をしてきました」
もちろん、いくら少食のルルでもそれで全てをまかなえていたわけではなく、足りない時は村の長や親友のロッティの差し入れに助けられてやっとの生活だった。
「それから、ルーカス様やアラン様と出会って、森に訪れてくれる度に食材の差し入れをしてくれるようになって……」
そのおかげでほんの少し食卓が豊かになったものの、そのぶん二人と食事をする機会もぐんと増えて、次の来訪に備え自分の分は普段通りの食材を使い、アランとルーカスが差し入れてくれた食材はなるべくとっておいて彼等が訪れた時に振る舞っていた。
「すまなかった……」
「面目ない……」
当時の食卓事情を聞き、それを振り返ったルーカスとアランが謝罪の言葉を述べる。
ルルの家へ訪れるようになって、その度に食事を御馳走になっていたので、二人ともそれなりに気を使って差し入れをしてきたつもりだった。
しかし、あの頃のルルはいつも申し訳なさそうな顔をしていたので、これは俺達の分も入っているなどと何とかかんとか言いくるめて、受け取ってもらっていたのである。
「い、いえ……。そんな、謝らないでください。私もちょこちょことは使わせてもらっていたので、ずいぶんと助かりました。本当にありがとうございます」
ルルとて、差し入れの食材を全く使わなかったわけではない。
もともとが慎ましく生活をしてきていたので、普段通りの食事で十分だったルルにとってちょこっとずつ使用するだけで、格段に料理の幅が広がったのも本当のことだった。
でも、だからこそルルは他の誰よりも、森の食材を多く体内に摂取してきたということである。
絵本ではアイナと呼ばれているあの蔦。
物語では魔法をかけていたが、もしかしたらもともと薬草の類の植物なのかもしれない。
けれど、薬草も摂取する量や調合の仕方を間違えると、体にとって害になる可能性もある。
数年掛けてあの蔦がこの森のいたるところに伸びているとしたら、土壌にも何かしらの成分の影響が及んでいるかもしれない。
人は口に入れる物によって、体が作られている。
だから、そこで育った野草をしばらく食べ続けていた自分にだけ、体調不良の症状が出たのではないか。
もちろん個人差もあるだろうが、自分の場合それが顕著にあらわれたのかもしれないとルルは考えたのだった。
「なるほど。ココ殿は、どう思いますか?」
ふいにルーカスがそう問いかけると、いつからそこにいたのか扉の影からひょこっと顔をだしたココは、優しい微笑みを浮かべてうんうんとうなずいていたので、ルルの考えに満足しているようだった。
ひょっとしたら、今の答えにルルが辿り着くのをココは密かに待っていたのかもしれない。
(全く……この人もなかなか抜け目がないな……)
この人も、ふと気がつけば何気に近くにいたりする……。
きっと、この話も姿は見せなくともすぐそこで最初から聞いていたであろうココに、ルーカスはそう思うのだった。
「となると、明日には王都に行って、うんと食材の調達をして来なくちゃね!」
ライアンが一際はりきった声を上げたのだったが、すぐにそれに気がついたのだった。
「あらぁ? でもそれならわざわざ危険かもしれない森の奥に行く必要もないんじゃない?」
確かに、ライアンの指摘はもっともだった。
「はい。私の体調のみを考えれば、しばらくのあいだ食材を切り替えて徐々に代謝を促していけば、自然と症状も改善されるかもしれません……」
それは、例え蔦の根元を切り離したとしても同じことだと言える。
それですぐに良くなるわけでもなく、体調を戻すには今言ったような方法を試みなくてはならない。
だからライアンの言う通り、わざわざ危険かもしれない場所へあえて足を踏み入れる必要はないのかもしれない。
「でも……。それでも、私は……」
これはただの我侭かもしれないと思ったが、声を振り絞るようにしてルルは自分の思いを口にしたのだった。
「この森が、このまま弱っていくなんて嫌です……」