そして森の少女は、幸せに包まれる 5
「ルルは何を考え込んでいるのかな?」
探索を終え家に戻ったルルは、ココと見てきた森の様子を皆に報告したあと、安静にしているルーカスの容体をみるため寝室を訪れると、反対に彼からそう声を掛けられたのだった。
ちなみにルーカスが怪我人ということでちゃんとしたベッドに寝かせたいと、新たな部屋割りを提案したルルだったが、例のごとくすったもんだが起こりつつも、最終的にはルーカスはルルの寝室へ移動することへとなった。
そのかわり、これまで寝室で寝泊まりしていたルルとサマンサ、ヴィリーにライアンといった女性陣(?)が居間へ移動し、男性陣と入れ替わることになったのだ。
「え……」
それはアランが森の奥へ行くメンバーを決める前の食事の時に、ふと思い浮かんだことにルルはここ数日あれこれと考えを巡らせていたのだ。
「もし、何かひとりで抱え込んでしまっているのなら、俺にも教えてくれると嬉しい」
そんなふとした合間に物思いにふけるルルの姿を、ルーカスはちゃんと見逃していなかったらしい。
「ルーカス様……」
自分のほんの少しの変化にも気がついてくれるのは、何だかくすぐったいような、でもとても嬉しいと感じるルルだった。
「それがとても難しいことで、すぐには答えが見つからないことだとしても、一緒に考えることはできるから……」
ルーカスはベッドの横に座るルルの手を包み込むように自身の手を重ねる。
そんな彼の言葉に、ルルはここのところ考えていたことを口にした。
「はい。実は、食事のことについてなんですけれど……」
「食事?」
これまで何かを食べて具合が悪くなったりということも特になく、普段通りの食事をとれていると思うのだが、ルルはそれのどこが気になっているのかルーカスはすぐには思い至らなかった。
「その……」
まだ自分の考えに確信が持てないのか、言葉にするのがもどかしそうなルル。
しかし、その時……。
「タダ飯食らいがいて、困っているのだろう!」
寝室の扉が乱暴にノックされたかと思うと、返事も待たず無遠慮にアランがずかずかと部屋に入ってきてそう言い放つと、運んできたルーカスの食事をドンッとサイドテーブルに置いた。
「ぐっ……」
少々、言葉は乱暴だが、確かに怪我人とはいえ皆がそれぞれの役割をこなしている間、自分だけ何もすることが出来ずに過ごしていることにかわりはなく……。
タダ飯食らいと呼ばれても致し方無い状況に、ルーカスも言葉に詰まるしかない。
「い、いえ、そういうわけでは……」
そんなルーカスのかわりにルルが弁解をしようとするも、そこへまたひとり強敵があらわれた。
「そうなのよぉ! 予定外に人数が増えちゃってぇ〜、持参してきた食材がもう底をつきそうなのよぉ。ほんと困っちゃう〜」
今度はルルの分の食事を持ってきたライアン。
「それは、そうなのですが……」
確かに、ライアンの言うとおり貯蔵されている食材の残りは心許なくなっている。
それを人数が増えたからと言うが、ここのところ一番の食欲を発揮しているのはライアン本人でもあった。
しかし、彼もまたルーカス救出時で削られた体力回復のために、無意識に体がエネルギーを補充しようとしているのかもしれない。
そう思うからこそ、誰も何も言わずライアンのお腹を満たすために、料理をふるっているのでもあった。
「で、ルルは一体何が気になってるんだ?」
言いたい放題言ったおかげで、どこかスッキリした二人。
てっきり、満足したらそのまま部屋から立ち去るかと思いきや、ルルの横にデンッと居座ると先ほどのルーカスの言葉を掻っ攫う。
「……」
アランがルルに掛けた「なるべくルーカスについてやってくれ」という言葉に、ルーカスもまた密かに心打たれたのだが、実際はというとルルと二人っきりになる時間などほぼ皆無だった。
色々と思うところはあるが、今は大人しくルルの言葉を待つルーカスであった。
アランに促されて、ルルは再び口を開く。
「実は、どうして私だけ体調不良を起こすのかを考えていたのですが……」
贄の印。森の妖精の呪い。
理由をそのような類に結びつけて、結論付けるのは簡単なことかもしれない。
もちろんルルとて、この森で体験してきた不思議な出来事や巡り合わせみたいなものも感じている。
世の中には、人智を超えた奇跡というものもあるんだと思っている。
けれど、それとこれとは別というか……。
薬師として安易にそういった考えに結びつけるのは病の原因究明を放棄することと同様の行為なのではないのか……とも思ったのだ。
四年前ルグミール村で起こった疫病の原因を、両親が懸命に追求していた姿を見てきたルルは、もっと現実的に考えてみようと思った。
ココがもうひとつ語った可能性を、ルルなりに考えてみればそれは至ってシンプルなものだった。




