警備隊のふたり 1
ルルをちゃんとした場所に休ませた後、ルグミール村の長をはじめ、今回雨乞いの儀式に関わった数人の村人達との、話し合いの席に着いたルーカスとアランは、まず最初に自分達の身元を明かした。
「俺たちは、王都の警備隊に所属している者だ。地方で災害や何かで被害を受けていないかを調査してまわり、必要なら王都へ報告し、救援等の派遣要請を行う任務についている」
金髪の長い髪に、青色の瞳をしたアランが淡々と、自分達の職業を簡単に説明すると、続いて紅茶のように赤みがかった短髪に、榛色の瞳をしたルーカスが、アランより少し態度を軟化させた様子で名乗った。
「俺はルーカス。そしてこっちはアラン。俺達は最近、ルグミール村地方で雨が減少していると聞き、調査を命じられてこちらへ来ました」
しかし、簡単に調査と言っても地方の村は、何処と無く閉鎖的だ。余所者は目立つし警戒されてしまう。
そこで二人は密かに旅人や行商人等に扮装して、村の状況を調べていたという。
今回の干ばつに村全体で心配する声は、あちこち上がっていたが、まだ、表立って混乱が起きているというわけではなかったが、人々には不安がべったりと張り付いていた。その様子に、村が危機的状況なのは見て取れた。
そんな時、二人は雨乞いの儀式の事を耳にしたのだった。
儀式を行うこと自体は、多くの村人達が噂していた。ただ、後ろ暗い内容は、ごく限られた人数だけにしか知らされていない。そのため、いつ行われるか等の詳細は、伏せられていたのだ。
しかし、その密やかさが逆に神秘性を煽り、追求する者はいなかった。もし、下手に介入して失敗すれば、村八分である。
しかし、他の村人達はまさかその儀式で、少女が生け贄にされそうになっていたなどと夢にも思わなかっただろう。
ところが、ルーカスとアランは仕事上、地方の村々を多く見てきたので、そこに伝わるいわくつきの伝承や儀式などの様々な話を耳にしており、ルグミール村に流れていた干ばつの不安とは違う、妙に張り詰めたような空気を感じとっていた。
救援要請の話を持ち掛けようと思ったが、いきなり自分達が話に行って、相手を刺激してしまう事態は避けたかった。実際、大人達は追い詰められ、冷静な判断が下せる状態ではなかった。
しかも、儀式の中止を恐れ、暴走してしまう危険もはらんでいた。
ルーカスとアランの余所者が、村では目立って動けない分、今まで以上に警戒され厳戒態勢で秘密裏に儀式を実行されたりしたら、さすがの二人も気づくことも出来ずに、本当に取り返しのつかない事になっていたかもしれないのだ。
そんな嫌な予感がしていた矢先、懸念したように思うように動けない状態が災いして、村の長と数人の大人達が村から姿を消したことに気づくのに、ほんの少し遅れをとってしまったのである。
しかし、慌てて行方を探り、何とかぎりぎりのところで辿り着くことが出来て、少女の救出に間に合ったのである。
「こちらの事情は以上だ。今度はそちらの事情を聞こう」
自分より年嵩の村人達にも関わらず、すこし威圧感を出しながらアランがそう言うと、村の長は重い口を開いた。
4年前の流行り病から始まり、近年続く雨の減少、そして今回の干ばつ。
村の窮状に追いつめられての凶行。
それらの話を聞いた二人は、ある程度の想像はついていたが、そこで初めて二人は、あの少女が贄の焼印を押された状況を知ることになった。
命を助ける事が出来たといっても、あの少女は心だけではなく、体にも大きな傷を負ってしまったということだ。
あらためて、少女がどれだけの恐怖と痛みを経験したのかと思うと、自分達の判断の甘さに対して、自責の念に駆られたのであった。




