そして森の少女は、幸せに包まれる 2
気がつけば、朝ごはんの時刻はとうに過ぎており太陽の日射しは真上に差し掛かろうとしていた。
ようやく安心してきたのかルルのお腹の虫も先程から騒ぎっぱなしだ。
この際お昼ごはんも兼ねようと気を取りなおしたルルも手伝いに加わり、皆と手分けをしながら冷めてしまった料理を温めなおしたり、追加の料理を手早く調理すると、人数が多いということもあり、食卓はあっという間に料理のお皿であふれていった。
この森でヴィリーと暮らしはじめた頃も、ルルにとってはそれだけでも充分幸せだと思っていた。
でも、こうやって大人数で囲む食卓も嬉しくてたまらない光景であった。
しかし、そんな賑やかな食事にふとルルはあることが気になっていた……。
しかし、頃合いを見計らってアランが本題を切り出したことで、ルルの考えは一旦中断することとなった。
「やっと、落ち着いたところで昨日の続きの話し合いをしようか」
すると各々の椅子でひと息ついていた面々も、ほんの少し居住まいを正してぐるりと周りを見渡し互いに頷き合うと、視線がアランへと注がれた。
「準備もあるだろうから具体的な日程は後日決めるとして、そうだな……まずは森の奥へ向かうメンバーを決めようかと思う」
そう口にしたアランがまず視線を送ったのは……。
「まずは、ルルとヴィリー。今のところの目的である蔓の根本を断つことだけなら、俺ひとりの力でも可能だろう。だが、残念ながらルルとヴィリーなしでは俺達は目的地にたどり着くことも、森の中を移動することすらもままならないだろう。危険は承知だが道案内を頼みたい」
「はい、精一杯頑張ります。……ヴィリーには、これまでいっぱい助けてもらってばかりで、ごめんね。それでもまた一緒に頑張ってくれる?」
アランの言葉にルルは頷くと、傍らに寄り添うもうひとつのかけがえのない存在にそっと手を伸ばし優しく頭を撫でながら声をかける。
すると、もっと撫でろと言わんばかりに、少女の手に自らの頭を擦り付け尻尾を大きく振り回し「了承」の意を示した。
「ヴィリー……。本当にありがとう」
いつだってルルの味方でいてくれたヴィリー。
ルルは椅子から降りると、柔らかな毛に包まれたその体躯を抱き寄せ感謝の念を送るのだった。
「俺も一緒に行く。ふたりのことはちゃんと守ってみせる」
そんな二人を、アランの言葉が力強く支える。
すると、静観していたココもそれに加わった。
「私も一緒に参りたいと思います」
確かにココの知識や経験はここにいる誰よりも深いのだろう。
「ココ様……」
しかし、この森に関しては一番馴染みのないココを心配するルルだったが、ココは安心させるように口を開いた。
「この森に対してリリィやルルほどの相性の良さはないのかもしれませんが、私も森に囲まれた故郷で長らく暮してきたので多少の心得はあります。正直、絶対とは言い切れませんが、はぐれてしまったとしてもこの家に帰り着くことくらいは可能かもしれません」
ココの申し出を、アランも素直に受け入れた。
「有り難いです。実は、もしもルルとヴィリーの二人とはぐれるような不測の事態に陥ったとき、ココ殿の存在が必要になると考えておりました」
そんな中、立場をわきまえアランよりも先に自ら判断を下したサマンサが口を開いた。
「ふむ……それじゃあ、私は留守番だね。ルルについていてやりたい気持ちは山々だが、足手まといになりかねないからね……」
「サマンサ様……」
確かに、ルルもまだ行ったことのない場所だ。
どんな危険が潜んでいるかわからないので、この家に残ってくれるのはルルとしても安心できるのだが……。
「そんな顔しなさんな。美味しいご飯を作って、アンタ達が帰ってくるのをこの家で待っとるよ」
「大丈夫よぉ! アタシがサマンサの分まで最後までちゃんとルルについててあげるから!」
しんみりとした顔のルルに、ライアンが己の屈強な胸をどんと叩いて励ます。
これまで王都では二度もライアンに助けられたルル、それだけではなく井戸の落盤事故に巻き込まれたルーカスを助けてくれたのも彼だった。
いざという時の頼もしさを知るルルとしては、何とも心強い存在である。
しかし、そんなライアンの発言に対して何故か無言になるアラン……。
「えっ……ち、ちょっと何よ、アラン! 急に黙っちゃって……」
「……」
「や、やだぁ〜……! まさか、でしょ?」
「……今回ライアンは、残ってもらう方向で考えている」
難しい顔をしたアランから、衝撃のひと言が放たれると……。
「はぁぁぁっ!!! どうしてよーーーっ!?」
ライアンの絶叫が、森中に響いた。




