そして森の少女は、幸せに包まれる 1
お互いの絆をさらに深め合ったルルとルーカス。
心を重ね唇も重ね合った二人の間には、独特の甘い空気が漂っていた。
ほんの少し空いていた二人の距離が、どちらからともなく再び縮まっていく。
ルーカスがのぞき込むように体を傾けると、ルルもそれに習ってそっと目を閉じかけた、その瞬間……。
居間から大きな物音と共に、ライアンの悲鳴が響き渡った。
それに驚いたルルがパッと目を開けると、至近距離のルーカスと目が合う。
「……」
一瞬、呆気にとられた二人だったが、またライアンが何かしでかしてアランに怒られているのかもしれないと思うと、お互い顔を見合わせたまま思わず笑ってしまった。
本音を言えば、もう少しそれに身を委ねていたい気持ちもあったが、ルルは先ほど皆の前で取り乱したことを思うと、きっと心配をかけてしまったであろう彼らの元へ一旦戻ることにした。
ルーカスに手伝ってもらいながら身なりを整えたルルは、今度は自分の足で扉の前に立ったものの、なかなか部屋から出ることができなかった。
先ほど皆の前でみっともなく泣き出してしまったのはもちろんのこと、どちらかというとルーカスと濃密な時間を過ごしたあと皆と顔を合わせる気恥ずかしさのせいで、落ち着きを取り戻したはずの心臓が再びけたたましく鳴り響くのだ。
必死に深呼吸を繰り返すルルの様子に、ルーカスはそっと彼女の腰に手を添えるとなだめるように優しくその背をさすってやるのだったが……。
励ましてやるつもりが、どうしようもなく込み上げてくる愛おしさに、ルーカスはぐっと体を傾けると衝動的にルルの唇を奪ってしまった。
「っ……」
一瞬の口づけは、ルルの思考まで一瞬にして真っ白にしてしまった。
ルーカスの行動がすぐに飲み込めず、驚きに目を見開いたまま動けないでいた。
しかし、じわじわと思考が追いついてくると再び激しく脈打つ心臓に、ルルは思わず涙が込み上げてしまった。
「ルーカス様の、いじ、わるっ……」
目尻に涙を滲ませると思わずルーカスを睨み、非難の声を上げる。
ルルとてルーカスからの口づけが嫌だったわけではない。
それはルーカスにだけ許されている特別の行為なのだが、今回はそのタイミングがすこぶる問題だった。
そんな今にも泣き出してしまいそうなルルに、慌てふためくルーカス。
愛しさ故のこととはいえ、一生懸命に心の準備をしていたところを邪魔してしまったようなものである。
いくら優しい彼女でも思わず怒りたくなるのも無理はなかった。
それからしばらく拗ねたように無言のまま、ぽかぽかとルーカスの胸を叩くルルであった。
けれど、そんなルルを見ることが出来るのも、またルーカスだけなのだった。
◇◆◇
皆が待つ居間に戻ると、ルルは心配をかけた皆に向かって頭を下げた。
「あ、あの……さっきは、突然泣き出したりして……心配をかけて、ごめんなさい」
「もう、大丈夫なのか?」
アランが優しく声を掛けてくれた。
「はい。あの、私……」
突然泣き出してしまったもどかしい気持ちをどう表現すればいいのか必死に言葉を探すルルだったが、アランは自分の人差し指をルルの唇に当てるとそれを遮った。
「無理に言葉にしなくても大丈夫だ。ルルが気に病むことは何ひとつない。俺もここにいる皆も、もっと、もっと、色んなルルを見たいと思っている。そのなかで、ルルが笑ってくれるのが一番嬉しい」
「アラン様……」
アランの真摯な想いがルルを優しく包み込むと、それに応えるようにルルは精一杯微笑んでみせた。
すると、その場に「ぐぅ」と大きなお腹の音が響いた。
厳しい視線が一斉にライアンに注がれたが、一瞬の間のあと真っ赤な顔をしてうつむくルルに、その場にいた皆が思わず声を上げて笑ったのだった。
最終章です。
最後まで見守ってくださると嬉しいです。




