癒える時 6
「ちゃんと、火傷の手当てができるようになったんだね」
ルーカスの言葉に、ルルは胸の奥からじんわりと温かいものが込み上げてくるのを感じた。
先程は自分の情けない部分にばかり目が向いて涙していたのが、ルーカスのひと言にちゃんと頑張ってきたことも思い出すことができて嬉しかったのだ。
正直、ルルとて目の前からルーカスが去ってしまった時は、もしかしたらこの先もうこの日が訪れることはないかもしれないと思うと心が悲鳴をあげていた。
それでも、ずっと胸に秘めていた約束を捨て去ることなど出来なかった。
「あの夜の、約束を……覚えて、いますか?」
そのひと言にルーカスはハッと息を呑む。
ほんの少し見上げるような姿勢のルルの瞳から、また数え切れないほどの涙の粒が頬を伝い零れ落ちていく。
「もしも、ルーカス様がっ……あの夜の約束を、守ってくれる時、に……何にも、変わってない……火傷の跡、見たらっ、悲しくなると、思って……」
それ以上は涙に溺れて声にならなかった。
もしも、あの夜の約束が果たされる時が来たら……。
でも、その時に放置されたまま何の手当もされていない火傷の跡を見たら、ルーカスはどう思うだろうと考えた。
きっと、すごく悲しい気持ちになると思った。
そしてまた自分を責めてしまうかもしれないと……。
正直、胸の焼印の跡の方はほとんど手当をしてこなかった状態なので治癒は難しいかもしれない。
けれど、ルーカスを庇った時の肩の火傷は、手当てを怠らずに続ければ目立たなくなるほどに治る可能性は大きい。
それならば、自分なりにそれに向き合って行こうと心に決めたのだった。
だからといって、すぐに火傷の跡を見ることも自らの手で直に患部に触れるほどの勇気が出てくるわけでもない。
そんな自分に出来ることといったら、薬を塗った油紙をベッドなどに敷いて患部の場所に上手くあたりをつけながらゴロンと転がって貼り付けたり、遠心力を利用してペタリと貼るくらいがやっとだった。
けれど、そんな小さな頑張りを一番伝えたかった人に、今、届いたのだ。
すると、まだ涙でぐしゃぐしゃのルルは、目尻も鼻の頭を赤くしたままだったけれど、それでもルーカスに向かって微笑んだのだった。
ルルのその笑顔に、ルーカスはたまらず彼女を抱き寄せた。
自分の腕のなかに、すっぽりとはまり込んでしまうほど華奢な身体のどこに、それだけの強さを秘めているのだろうか……。
そんな小柄な彼女を、ルーカスはこのまま抱き潰してしまうのではないかと思うほど強く抱き締める……あふれる感情に力の加減が追いつかない。
彼女の全てが愛しいと思った。
だからこんなにも泣けてくるのだと、ルーカスはルルの首筋に顔を埋めたまま瞳の奥から込み上げてくる熱いものをこらえることが出来なかった。
「よく頑張ったんだね……」
もっとたくさんの言葉で彼女を讃えたかったけれど、胸がいっぱいでそれだけしか言えなかった。
すると、彼女がまた小さく笑った気配を肩越しに感じ取る。
やがてお互いのぬくもりを存分に確かめ合うと、自然と抱擁が解かれルルはひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
密かに心の底から待ちわびていた約束を、巡り巡って今こうしてやっと叶う幸せに、ルルの瞳はまた潤んだ。
「また、この火傷の薬を塗ってくれますか?」
――今度は、一緒に。




