選ばれた少女 5
村の長の家に着くと、ルーカスは何よりも真っ先に、手早く用意してもらったベッドにルルをそっと下ろした。
と、不意に何かに引っ張られたような感触がして見てみると、少女が自分の服の端をきゅっと掴んでいた。
少女の無意識でのその仕草は単純に可愛らしかったので、ルーカスの表情がほんの少し和らいだ。
けれど、それだけ怖い思いをしたという事でもある。
無意識に何かに縋るように掴んでいないと、不安なのかもしれないそう考えると、無理にルルの手から離す事はためらわれた。
正直、ルーカスもアランもひょうひょうとした態度を装っているが、内心は少女をこんな目に遭わせたことへの怒りと、自分たちの救助の遅さに対しての後悔の念が押し寄せていた。
なぜ、もっと早く駆けつけてやれなかったのか……。
けれど、嘆いていても起こってしまった事は変えられない。
ほんの少し、冷静さを取り戻すと、ルーカスはおもむろに上着を脱ぎはじめた。その行動をアランは訝しげに聞いた。
「……おい。なぜ服を脱ごうとしている」
「だって、この子の手を解くの可哀想だろ。掴んでる上着だけだよ」
アランからは、お前の服なんか汚いとか臭いとか何とかブツブツ文句を言われて、一瞬むっとしたルーカスだったが、少しでも少女に温もりという安心を与えたかったのだ。そしてそのまま自分の服を少女の身体に掛け、その上から布団を被せた。
これから、村人達との話し合いをしなければいけない。自分達が駆けつける前に少女がどれだけの悲惨な目に遭わされたのか、より鮮明に知る事になるだろう。
そう思いながら、目の前の少女の寝顔を見ていると、このままずっと傍に居てやりたかった。
「アラン、話し合いはお前に任せる」
冗談ともつかない感じでそう言い、その場に留まろうとするルーカスの頭を、アランがゴツンと殴る。
「……ってぇ!」
「馬鹿な事言ってないで、行くぞ」
「分かってるって、冗談だよ……」
アランとてルーカスと同じ気持ちに違いないのだが、自分達はこれから早急に今回の事態に陥った経緯を聞き出さなければいけないのである。
やらなければならない事がそんな相棒をまあまあとなだめてその場をあとに、話し合いの席に向かった。




