森のおともだち 2
「人数が多いので、読み聞かせましょう」
ココはそう言うとコホンとひとつ咳払いして、ページをめくりはじめた。
「むかし、むかし、もりには、ようせいさんが、くらしていました」
「……」
「あ……申し訳ありません。故郷の村では子どもたちに、よく絵本など色々なお話を読み聞かせていたもので……。けれど、この絵本を子どもたちに読み聞かせるのは、もう十数年も前に僕が禁止にしました」
ココは少し沈んだ表情でそう呟くと、そのまま続きを読み始めた。
◇◆◇
その森には、むかし妖精が暮らしていました。
彼女は樹々や草花を愛で、小鳥と歌を歌い、森の動物達と楽しく平穏な日々を過ごしていました。
そんなある日、そこにひとりの人間の女の子があらわれました。
森の妖精は、すぐさま木の陰に隠れてしまいました。
妖精の王さまからは、人間は悪いやつばかりだから気をつけなさいと、言われていたからです。
けれど、目を真っ赤にさせたその少女は、とても悪い人間には見えませんでした。
だから森の妖精はその少女に、つい「どうしたの?」と声をかけてしまいました。
森のなかで、急に声を掛けられてびっくりする少女。
あたりを見回すと、ふと木の陰から緑色の髪の毛と同じ色の瞳をした女の子が、こちらをのぞいていました。
妖精が迷子になったのかと聞くと、少女はコクリとうなずいた。
それから、ぽつりぽつりと言葉を交わすうちに、あっという間に仲良しになったふたり。
そこで少女が迷子になって話を聞いてみれば、どうやら彼女の暮らす村が水不不足らしく、それで森に果実をさがしにきたけれど、出口がわからなくなったらしい。
妖精は、そんな困っている様子の女の子に、森の果物を少しわけてあげようと、動物達に果物を集めてくれるように頼みました。
「こんなに、もらっていいの?」
「うん」
「わぁ! ありがとう」
すると、パッと花が咲いたような笑顔で、大喜びする少女を見た妖精は何だか胸のあたりがほわっと暖かくなったような気がしました。
そして、日が傾きかけるまでふたりは森で遊び、妖精は彼女に帰り道を教えてあげました。
その別れ際、
「ねぇ、私たち“ともだち”になろうよ。だから、また森に遊びに来てもいい?」
すごく楽しかった妖精は、笑顔で「いいよ」と答えました。
それから、人間の女の子は、たびたび森に遊びにくるようになりました。
まだ村は水不足らしく、妖精は色々な果実をわけてあげましたが、森の動物達にとっても大事な食料なので、少しずつしかあげられませんでした。
すると、妖精は人間の女の子に「本当は秘密なんだけどね」と言って、そばに生えていた植物の大きな葉っぱを一枚摘むと、それを器のようにして両手で包み込みました。
そして、妖精は人間には聞き覚えのない言葉で何かを呟くと、なんとその葉っぱの中に少量のお水が湧いてくるのです。
そのことにひたすら、すごい、すごいと少女が妖精に言うと、
「これはね“アイナ”という蔦植物の葉っぱ」
「アイナ……?」
「うん。アイナはね“まほう”と、とっても相性がいい植物なの」
「まほう?」
「そう。こうやってアイナに呼びかけると、まわりからほんの少しチカラを借りてきてくれるの。といっても、コップに半分くらいの量が精一杯だけどね。本当は人間には内緒なんだけど、君には特別に教えてあげる」
「え、いいの!?」
「うん! だって、私たち“ともだち”だもん」
「ありがとう」
それから、何日もかけて妖精から“まほう”を教わった少女は、ある日ついに自分の両手で器の形にしたアイナの葉っぱの中から、お水を湧き出すことができるようになりました。
これで、少しはお父さんやお母さんの役に立てると喜ぶ少女の笑顔に、妖精もまた嬉しくなりました。
けれど、実はアイナは妖精の王さまが特別にくれた種を妖精が育てていた蔦植物でした。けれど、人間の世界では成長するのがとってもゆっくりなのです。
だから、すごく貴重な葉っぱでした。
けれど、妖精は“ともだち”のために、惜しげもなく何枚も摘んで少女に渡してあげました。
しかし、それからしばらく、少女が森に遊びにくることはありませんでした。
いつものように森の小鳥達や動物達と一緒にいても、妖精は寂しさでいっぱいでした。
そうして、二ヶ月くらいして、やっと少女が再び森にやってきました。
どうやら、教わった“まほう”で両親のみならず、村のみんなにも少しずお水をわけてあげていたらしいのです。
それが、忙しくてなかなか来れなかったと少女は言いました。
「そうだったんだ。寂しかったけれど、君の役に立てなのなら良かった。じゃあ、今日はまた一緒に遊ぼうよ」
妖精はそう声を掛けたが、何だか浮かない顔の少女。
話を聞くと、今度は村のともだちが怪我をして大変らしい。
すると、妖精はまたもや蔦植物アイナの葉っぱを摘み、今度はまた以前とは違う不思議な言葉を呟いたあと、これを煎じて飲ませると怪我が早く治るといって、少女にわたしました。
けれど、受け取っても何やら期待の目で見つめてくる少女に、妖精は仕方ないなといった様子で、また少女に“まほう”教えてあげることにしました。
そして、少女は“まほう”を教わるために、また毎日森に来てくれるようになりました。
それが嬉しくてたまらない妖精。
しかし、それも覚えれば、やがて少女の足はまた森から遠ざかってしまいました。
またもや、寂しさが募るばかりの毎日。
どうしたら彼女は、また森に来てくれるようになるのかな。
また、困ったことがあれば、相談しにきてくれるのかな。
そうだ。いつ来ても、“ともだち”を助けてあげられるように、アイナを少しでも育てておこう。
アイナ自体を“まほう”で成長させることは出来ないけれど、妖精の力を直接わけてあげれば、人間の世界でも少し成長が早まると聞いたことがある。
そうして、妖精は少しずつ自分の力を蔦植物にわけてあげました。
そんな思いに反応するように、アイナは徐々に成長していきました。
それからしばらくして、妖精の予想どおり、少女は困ることが起きると森に相談をしにくるようになりました。
そのたびに妖精はアイナを使って力を貸してあげると、少女は喜んでくれました。
あぁ、ともだちっていいな。
君が嬉しいと、私まで嬉しい。
君が笑うと、私も笑顔になる。
もっと、もっと、会いにきてほしいな。
そうしたら、いつでも私が助けてあげるからね。
ずっと、ずっと、ともだちでいようね。




