今、君と 2
「だから、ココ様。もし何か知っていることがあれば、教えてください! お願いします」
そう言って深々と頭を下げるルル。
ココは、その姿にあらためてリリィとロイの娘だと実感させられていた。
本当に先程のルルの言葉を、他人との交流や意見などお構いなしに、ひたすら自身の研究にしか興味のない自分の村のどうしようもない薬師達に聞かせてやりたいものだと、心のなかでこっそりため息をつく。
ただ、母親譲りの芯の強さ……。
かつて自分たちは、リリィのその想いの強さと深さを見誤り、最終的には彼女に故郷を捨てざるを得ない選択をさせてしまった後悔がよみがえった。
故に、ココはその気持ちを、どこかはかるように声を掛けた。
「もしも、危険が伴う可能性があると言われても……ですか?」
その言葉に、ルルよりもアランがピクリと反応した。
けれどそんな彼に、ルルは一旦顔を上げると「大丈夫」だというようにひとつ頷くと、ココに向き直ってこう言った。
「……はい。でも、もしそうだったとしても、もう、無茶をして自分だけが苦痛を背負うような選択はしません。私には私を大切に思ってくれている人達がいてくれるから……。だから、みんなを心配させないためにも、どんなに時間がかかっても、可能な限り最善の道を探したいと思います」
そこで一旦言葉を切ると、一呼吸おいてルルがまた口を開いた。
「だから……大丈夫です!」
それは、もうココに対してではなく、それを通り越して窓の外側に身を隠しているであろうルーカスに向けての言葉だった。
ルーカスと離れている間、もう彼に会うことができないかもしれないと思ったら、その悲しみと後悔がどっと押し寄せてきた。
けれど、胸が張り裂けそうになっても、ルルは自分の行動を振り返ってはあの時どうすればよかったのか、考えることを諦めなかった。
ルーカスと最後に会ったあの夜に交わした約束を、ルルはどうしても諦め切れなかったのである。
そうやって自分なりにいっぱい考えて考えての、答えであった。
けれど、それはルル一人では、きっと見つけ出せなかっただろう。
ふいに頭に手をのせられたので、見上げるとアランがよく出来ましたと言わんばかりの顔でぽんぽんと撫でてくれた。
そして、そのままライアンの方を見やると、笑顔でルルにウインクを飛ばし、サマンサはうんうんと頷いていた。
そう、三人と過ごしたかけがえのない日々もまた、ルルのそんな心を支えてくれていたのである。
「なるほど。リリィに似たその芯の強さが、あの時の彼女と同じように……無茶をしてしまわないか心配でしたが、どうやら大丈夫そうですね」
駆け落ちをしたものの、リリィとロイは結果的に困難を切り抜けてルルを授かった。けれど、一歩間違っていれば悲惨な目に遭う可能性のほうが限りなく大きかったはずだ。
だからこそのココの心配だったが、ルルの答えにホッとすると、かつてリリィにしてやれなかった手助けを、今そっと出してやるのだった。
「ひとつ教えていただきたいことがあるのですが……。それほどルルが会いたい人というのは、もしかしてリリィにとってのロイのような存在ということでしょうか?」
その質問にルルは思わずココの顔を見やると、ココは微笑みを浮かべたまま視線だけをクイ、クイ、と窓側に向ける。
「はい……」
少し緊張しながらもルルは自分の気持ちを認めると、どこかはにかむような笑顔を浮かべた。
そうして、自分の気持ちを一度吐露してしまえば、もう……どうすることも出来なかった。
「もしかしたら、会いたいのは私だけなのかもしれません。でも……それでも、これはただの私の我儘だとしても……。私は、その人が大変な目に遭っていたら、真っ先に駆けつけて、少しでも支えになりたい……! 辛い時には、そばにいてその寂しさに寄り添ってあげたい! だから……だから、私はっ……!」
一気に喋ったからなのか、ふいにルルの言葉が途切れた。
しかし、抑え切れないほどの想いが次から次へとあふれてきて、ルルは一度深く息を吸って吐くと、再びその想いを紡ぐ。
「これまで……ううん、まだ今この時も、森の中で来てくれるのを待つばかりの私だけど……。この体を治したら今度は私から、会いに行けるようになりたいです! いつでもどんな時でも……!」
ルルはありったけの想いを込めて、心から愛しいその人の名を呼んだ。
「ルーカス様にっ……!」




