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今、君と 1



 アランに付き添われながら、ルルが寝室から姿を現せた。


 涙こそ見えなかったものの、ずいぶん泣いたのだろう……。

 目元を真っ赤にしたルルの背中を、励ますようにアランが優しく撫でていた。


 そのおかげもあって、おずおずとながらも皆の前にやってきたルル。

 ヴィリーが真っ先に擦り寄り主を出迎えると、ルルも両手を広げてその大きな体を抱きしめた。


 森に来てから、いつだってそばにいてくれたそのぬくもりに、ルルの心は安心感に満たされていくのだった。


 先程の二人きりのやりとりは、ライアンはもちろんのこと、サマンサ、そしてココまでもがしっかり……いや、こっそりと扉の向こう側から様子を伺っていたので、おおよそのことは承知していた。


 そして、ルルの代りに扉を開けたヴィリーも、アランと入れ替わりで寝室を出たが、てっきりそういう輩を阻む役目を担うのかと思いきや、やはり主の心配の方が大きかったのだろう。

 皆と一緒になって、二人の様子を静かに見守っていたのだった。


 だから、ルルの泣き腫らした跡を見ても、誰もそれには触れることなく、静かに少女を迎え入れたのだった。


 ヴィリーからも勇気を貰ったルルは、まだたどたどしさの残る足取りではあったが、ココの前に進み出た。

 少女の瞳はまだ潤んだままだったが、けれどその奥に強い意思を感じ取ると、ココはルルに優しく問うたのだった。


「ルル。心は……決まりましたか?」


 ルルは両手を胸の前でぎゅっと握り締め、短くない沈黙の末、覚悟を決めたような顔で「はい」と頷いた。


 一体、いま自分の体に何が起きているのか……。

 知るのが、怖くないといったら嘘になる。


 けれど、ルルはそれ以上に叶えたい想いがあった。

 だから、もし何か解決の手がかりを知っているのならそれを教えて貰いたいと、逃げ出しそうになる気持ちを必至に繋ぎ止めて、ココに向き合った。


「私は……今、森の中ではこうやって、普通に生活出来ています……。でも、少しでもこの地から離れると、必ずといっていいほど……体調が悪くなって動けなくなってしまうのです」


 ルルの告白に、けれどココはどこか予想していたのかそれを冷静に受け止める。


「ふむ。もともと体調面に不安があったとか、何か精神的なものが関わっているという可能性は考えられますか?」


 ココの質問に、ルルは素直に答えていく。


「これまで、風邪以外で大きな怪我や病気にかかったことはなかったので、健康に問題はないと思います。なので……私も最初は、精神的なものが関係しているのかもと思ったのですが……」


 森での生活でルルはヴィリー以外の、また新たな出会いと交流を深めていくうちに、やっと少しは肩の力を抜くことができたのか、これまでの精神的疲労がどっと押し寄せたのかもしれないと思っていた。


「違うと?」


 ココの言葉に、ルルはこくりと頷く。

 確かに、最初はそう思ったりもした。


「私も……儀式に巻き込まれた時のショックを引きずっていて……。だから、この森に住み始めた頃は……もうずっとここでヴィリーと静かに暮らしていきたいって……。森に引き籠ったままでも、構わないと……」


 そこで、ルルはふと三人の方を振り返ると、おもむろに「ごめんなさい」と謝った。


「実は、それは、その時だけじゃなくて、今も……。アラン様やライアン様、サマンサ様が一緒にいてくれる生活に、ふと、またそう思ってしまうことがありました……」


 自分が村に戻れるように、皆がこんなにも力を貸してくれているのに、心のどこかでそのような思いも抱いてしまっていたのを、少し後ろめたくも感じていたのだ。

 突然の謝罪に驚いたものの、ルルの気持ちを聞くとすぐに笑顔を返してくれた。


「あなたがここに来た経緯は、簡単にではありますが聞きました……。私もこの家を尋ねた瞬間から、とても居心地の良さを感じております。もし薬師としてこれからを研究に費やすというのであれば、無理に森から出て村の人から白い目で見られずとも、ここでならあなたらしく生きられる環境に最も適していると言えましょう」


 ココの言う通り、ルルも最初はそう思う心が無意識に体に影響しているのではと、考えたりもした。


 けれど……。


「そう思ったことも……いっぱいありました。でも、そうやって閉ざしてしまいそうな時、何度も、何度もそんな気持ちからすくい上げてくれた人が……いました。だから、私は……ただ森の中でひたすら研究に専念するんじゃなくて、これからもっと、もっと色んなものを自由に見て回りたいし、色んな人にも会って、悩んだり苦しんでいたりする誰かのためになる……そんな薬師になりたいです」


 また再び人との交流を持つようになり、その優しさと喜びに触れ、ルルの目指す両親のような薬師になりたいという本来の目標を取り戻してくれたひとりの姿が、ルルの胸の中にいる。


 それを口にする瞬間、ルルの胸にちくりと痛みが走った。


 アランは愛しているからこそ、その手を離してくれた。

 なのに、自分は誰よりもその人の手を求めようとしている……。


 けれど、背中を押してくれたアランの想いに応えるためにも、胸の痛みも何もかも全部抱えて、その強い想いを言葉にした。




「そして何より、そんな私の夢を取り戻してくれた人に、今度は自分から会いに行きたいんです……」




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