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アランのための、涙 3



 アランは出会った当初から、抱えきれないほどの好意をルルに与えてくれていた。


 ルルはもともとそういう方面には(うと)いこともあったが、何より忌まわしい出来事のせいで無意識にそれを遠ざけようとしていたのかもしれない。


 けれど、いつも遠慮ばかりのルルにアランはめげることもなく、森の生活で必要な物を差し入れしてくれたり、薔薇の花束をプレゼントしてくれたり、王都では洋服を買ってくれたばかりか、ルルが諦めながらも密かに欲しがっていた本まで贈ってくれた。


 ルルの頑なになっていた心をほぐしてくれていたのは、何もルーカスばかりではなかったのだ。

 そうやって、アランもまた何度も何度も、ルルの心の扉をノックし続けてくれていたのだ。


 そんなアランにルルは、たくさん助けられてきた。

 正直、ルーカスと過ごした時間よりも、実はアランと過ごしてきた日々の方が多かった。


 アランはそばにいてくれて安らげる日々を、惜しみなく与えてくれた。

 そんなにも自分を好きになってくれた人なのに……。


 それなのに……。


「アラン、さまは、つらい時も、かなしい、時も……いつもそばに、いてくれたのに、わたし、は……わたしは……! なん……にも、返せなくて……」


「うん。うん……」


 しゃくり上げながらも、精一杯の言葉を告げてくるルルの姿に、アランは優しくうなずきながら聞いてやっていた。


 アランは、その端正な容姿のおかげで女性に言い寄られることも多かった。

 しかし、そんな彼にとってルルはこれまで出会ってきた女性達とはまるで違っていて、勝手がわからず、最初はずいぶん自分の想いばかりをぶつけていたように思う。


 けれど、自分がどんなに大変だろうと、いつも周りの人たちの心配をするルルのその深い優しさに、芯の強さに、心を打たれた。

 何も、特別なことではないのかもしれないけれど、自分もそんなふうにありたいと思った時、あらためて他人を思いやるということを知ったような気がした。


 だからこそ、ルルの心のなかに自分ではない誰かがいようとも、彼女が悲しみに押し潰されそうになった時、何の迷いもなく手を差し伸べることができたのかもしれない。

 全く期待していなかったといったら嘘になるが、例え自分の想いが報われなくても、そのすべてを丸ごと受け止め、支えてあげたいと思えたのだった。


「ごめっ……ごめん、なさぃ……」


 だから、痛ましく思えるほど泣きじゃくりながら謝罪の一言を絞り出したルルを、アランはそっと引き寄せると、その小さな背をぽんぽんと撫でてやった。


「ルル。ルル? ……ルル、聞いて。大丈夫、大丈夫だから」


 あやすように、そしてどこか自分にも言い聞かせるように、その言葉を繰り返すアラン。


「言ったろう? ルルが誰を想っていても、俺がルルを愛することに変わりはないのだと。あの時の気持ちは、今も変わらずにこの胸にある」


「っ……!」


 胸が詰まって、喉の奥からくぐもった声しか出てこなかった……。


「だからこそ、愛する君の幸せを誰よりも願っている。俺は大丈夫だから……ルルも自分の気持ちに素直になっても大丈夫だ」


 アランの想いに、ルルはしばらく動けなかった。

 その言葉を、ルルは胸の奥で反芻する。


 どれくらいそうしていただろうか。

 やがて、アランの腕のなかでルルがこくんとひとつ頷くと、アランはその体を離した。

 そして、涙でぐしゃぐしゃのルルの顔をアランが両手で挟み込むと、その筋を拭ってくれた。


「さぁ、そろそろ泣き止んで。どんなルルも可愛いと思うが、やはり好きな子には笑顔でいて欲しいからな」


 そう言ったアランの笑顔にルルも続こうとしたけれど、失敗した。


 そんなルルに、それでもアランはまた優しく微笑みかけてくれるのだった。



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