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アランのための、涙 2



 森から出られるようになりたい理由は、もちろん他にも色々とあってルーカスだけのためではないのだが、けれど今のルルにとってはそれが最大でもあった。


 だからこそ、ルルはアランに対する罪悪感でいっぱいになってしまっていた。


「少し話したいことがあるんだが、開けてくれないか?」


 扉越しのアランの声にルルは思わず身をすくませると、毛布に顔を押し付けたまま首を横に振った。

 それではアランに分かるわけはないのだが、それでも声を押し殺していないと、ぐっと込み上げてくるものを我慢出来そうになかった。


 ここで、自分が泣くことが、どれほどずるいか……。


 けれど、そんなルルを見透かしたように、アランは耳に染みこむような優しい声音で語りかけてくれた。


「ルル。きっと今……俺のことでいっぱい考えてくれてるんだろう?」


「っ……!」


 アランの核心を突く言葉に、ルルは咄嗟に起き上がるとくしゃりと顔を歪めて、寝室の扉を見つめた。


「それだけで、俺はもう十分に思っている。大丈夫だから……ここを開けて、ルル」


 ルルは口を塞いで必至で嗚咽をこらえようとしたが、瞳から溢れてくるものは抑え切れなかった。

 すると、ルルの傍らにそっと寄り添っていたヴィリーが、そんな主の姿を見かねたのか、むくりと体を起こした。


 それを、あわててルルが抱きとめる。


(ダメ……。ダメよ、ヴィリー……。ダメッ……)


 声にはならず、心のなかで必至に呼び止める。

 アランは、ルルの罪悪感からすくい上げてくれるような言葉をかけてくれるが、ルルはまだアランを傷つけないための魔法のような言葉を見つけられずにいるのだ。

 そんな言葉など、どこにもないことを知りながらも……。


「ルル? ルル」


 アランに呼びかけられるたびに、ルルはヴィリーの体に埋もれさせた顔をいやいやと横に振り、その毛並みを涙で濡らすばかりだった。

 しかし、ヴィリーがぐっと立ち上がりルルの抱擁を解くと、トッとベッドから飛び降りて扉へと近付いていった。


 制止する間もなく、ヴィリーが扉を開けた。


「ルル」


 アランはルルの姿を見て、目を細めた。


 その優しい眼差しと声が、ルルの想いなどなにもかも知っていると、告げていた。

 これから自分の気持ちを伝えなければいけないのに、それはアランの望む言葉ではないのに、そんなルルをそれでも気遣ってくれていることに、ルルは胸がいっぱいになる。


「……ア、ラン、さま……わた、しっ……、わ、たしは……」


 華奢な肩を小刻みに揺らしながら、必至で声を絞り出すルル。


「ルル。ありがとう」


 けれど、ルルが言い終わらないうちに、アランの方から唐突に感謝を伝えられた。

 その言葉に驚いて、ルルはうつむいていた顔を上げ真っ直ぐにアランを見ると、アランもまた真っ直ぐにルルを見つめてくれていた。


「……なん、で、アランさま、が、お礼……」


 ルルはアランに、何もしてあげられないでいるのに、なにひとつ返せないでいるのに……どうして。という気持ちがルルの中を駆け巡る。


 すると、アランはおもむろに手を伸ばすと、ルルの瞳からぽろぽろと零れ落ちるその涙を人差し指でそっと拭ってくれた。


「この涙は、俺のことを思って泣いてくれてるんだろう?」


「……」


 その言葉に、また瞳の奥から熱いものが込み上げてくる。


「俺が見てきた君の涙は、いつだって奴のためのもので……。でも、今は俺のことで悩んで流してくれているのだろう? 俺のことをたくさん考えてくれたという証だ」


「アラン、さまっ……」


「すまない……。決してルルを泣かせたいわけじゃなかったのだが、それでも俺は、俺の気持ちを思いやってこうやって泣いてくれたことに、このうえない幸せを感じている」



「だから、ルル。ありがとう」




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