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来訪者 8



「私の知っているリリィとロイの話は、以上です」


 ココはそう言うと、ふぅとひと息ついてルルの用意してくれたハーブティーを口に含んだ。


「ああ。香りが良くて、柔らかいお茶ですね。とても、美味しいです」

「あ、ありがとうございます。お口に合ってなによりです」


 オリジナルのお茶を褒められ何とも素直に喜ぶ少女に、ココは一段と優しげな視線を注ぎ、しばらくルルとの談笑を楽しんでいたのだった。


 しかし、その途中でアランが何やらわざとらしく咳払いをして、話の続きを促したので、ココはルルとの歓談を名残惜しそうにしながらも、懐から一通の手紙を取り出しテーブルの上に置いた。


「さて……そろそろ本題に入りましょうかね。実は、先日リリィからこの手紙が私のところに届いたのです」


「そんな……。だって、母さまはもう……」


「ええ。ここに来る前に、ルグミール村で四年前に亡くなったと聞き、驚きました……。しかし、娘がいると知り、しかも何やら事情を抱えてこの森に住んでいる事を聞いて、これも何かリリィの導きではないかと思い、あなたに会いに来たのです」


 四年前に亡くなった母の手紙がなぜ今になって故郷に届いたのか、しかもその手紙を頼りにわざわざココがルグミール村まで訪ねてきたということは、何か重大なことが書かれているのか、ルルは不安げになりながらも、手紙の送り主の文字を確かめた。


「確かに、これは間違いなく、母さまの字……」


 しかし、さすがのルルも今すぐその内容に目を通すには、まだ心の準備が追いついていなかった。

 そんな様子の少女に、ココはこう切り出した。


「ルル。もしかしてあなたは今、とても困っている事はありませんか?」


 ココの問いに、ルルの心臓は思わず大きな音を立てた。

 他の三人も息を呑んだように、青年へと視線が集中した。


「やはり……そうですか。森の中で暮らす経緯は、ある方から大まかに聞きましたが。しかし、皆さんの表情を見る限り、それ以外に困ったことがあるのでしょう。もしかしたら、このリリィの手紙に書かれていることに、関係……いえ、巻き込まれているのかもしれません」


 いきなり森に訪ねてきたココに、現状をズバリと言い当てられてしまい、しばらく誰も口を開けなかった。

 しかし、そんな沈黙を破ったのはアランだった。


「ココ殿は、何を、どこまで、ご存知なのですか?」


 突然のことで深く追求することもなく招き入れてしまったものの、ここに来て目の前の青年に再び警戒心が沸き起こった。


 ココをここまで連れて来たルーカスの判断は正しかったと、今の彼の口振りを聞いて、アランもそう思った。

 しかし、事前連絡する間もなくやってきたことと、ルーカスが隠れてまでココの話を聞くということは、彼もまだココの真意を聞いたわけではないのだろう。


 事実、ココはリリィから手紙の内容について詳しくルーカスに明かさず、直接ルルに会って伝えたいとのことだった。ルーカスとて、そんな状態でルルの症状をバカ正直に全て話すほど考えなしではなかった。

 ルルが森に暮らさなければならなくなった経緯は大まかに説明したが、ココ同様にそれ以上の詳しいことは伏せていた。


「訝しむのも無理はありません。しかし、よければ何があったかお話くださいませんか? リリィは行方をくらませるくらい、故郷に対して複雑な思いを抱えていたのでしょう。だからこそ、この手紙が彼女の手から出されることはなかった。しかし、そんなリリィが、それでも一度は筆を取ったのも事実です」


 そう、リリィはきっと村を離れてから、自分の置かれていた環境がどんなだったのか気がついたのだろう。

 そんな彼女が、それでもしたためた一通の手紙。ただ、結局その時はリリィのなかでもこの手紙を出すに至らないほどの、杞憂だったのだろう。


 けれど、何の因果かこの手紙は彼女の亡き後に、ココのもとへ届くことになった。


 しかし、この時点では誰も彼女の訃報を知らず、村で未だにリリィを連れ戻そうという声も一部あったが、ココは彼女の所在を明かすことなくその意見を黙殺した。


 そして、手紙に書かれた件を調べ、その報告のためルグミール村を尋ねてきたのだ。

 出向いたものの何もなければ、ココは大人しく帰るつもりだった。


 しかし、いざ来てみればロイはおろか、肝心の本人までもが亡くなっていたのだ。



 ——リリィ、まったく君という人は、こんな、こんな……。けれど、あなたは最後まで自分を貫いて生きたのですね。




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