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来訪者 6



 突然やってきた青年から明かされようとした、ルルも知らなかった母の過去に、もちろん今すぐにでも聞きたい気持ちでいっぱいだったが、戸惑いが全くないといったら嘘になる。


 ココの言うようにきっと長い話になると予想して、その前にひとまずお茶となにかつまめるようなものを準備することにした。ルルは心の準備をするためにも、そうすることで少し落ち着こうとしたのだ。


 お茶は、ルルが森の畑で育てているハーブを独自でブレンドしたお手製のハーブティー。それにサマンサが王都からのお土産で持ってきてくれた焼き菓子を一緒に出そうとルルは考えた。

 それらを準備している少女にはヴィリーが付き添ってくれていたので、アランはその間に、ココに自分の素性とここにいる経緯、ついでにライアンやサマンサについても簡単に説明したのだった。


 そうしているうちに、準備が終わったルルがテーブルに運ぼうとした時、すかさずアランが立ち上がり甲斐甲斐しくそれを手伝うことで、先ほどライアンとサマンサに邪魔されたルルの隣の席を確保する。

 それをみたサマンサがやれやれといった様子で席を譲り、ライアンはそのままルルの隣で、ヴィリーは少女の足元に座り込んだ。

 そんな光景を目にしたココは、どこか安心したように頬をゆるめたのだった。


 それぞれにお茶が行き渡り、さあ、いよいよ話し始めようとした時だった。

 そこで、ココは何かを思い出したかのように、唐突にこんな事を言った。


「すみません。窓を開けてもいいですか? いえ、何だか今日はやけに暑くて、空気の入れ替えを……」


 そう言うと、ココはおもむろに振り返り背にしていた窓に手を伸ばしたが、立て付けが悪いのかなかなか開かない。


 しかし、ココのその言動に他の四人は呆気にとられていた。

 ココは暑いと言ったが、そろそろ季節は秋に近づき、森は日中でも肌寒く感じるほどだったからだ。不思議に思いながらも、苦戦しているココを手伝おうとルルが立ち上がろうとしたが、それを他の三人が遮った。


 ルル以外の三人はお互いの顔をうかがいながら、またもやライアンとサマンサが「お前が行け」というように顎でしゃくったので、しぶしぶアランが席を立った。


 すると、しばらく森の家で暮らしていたのですっかりコツを掴んでいたアランは、いとも簡単にその窓を開けた。


「……」


「……」


 薄々、そんな気はしていたが……。


 アランは窓の軒下に気になる……いや気に障る存在を確認すると、数秒の沈黙のあと、「おっと、手が滑った」と何やらわざとらしくそう言うと、ゴツッと鈍い音が響いた。


 さらに、その開いた窓から冷たい風がビュッと吹き込んで、先ほど暑いと言い出したはずのココが思わず身震いをしてしまったのだが……。

 しかし、それに対してアランは何故かそのまま窓を閉めることなく、席に戻ってきたのだった。


 それに確信を持ったライアンとサマンサは、すかさず口を開いた。


「やだぁ、虫とか入ってくるから閉めてよ。アラン」


「年寄りには、冷たい風は良くないんじゃよ」


 二人の口調はトゲトゲしく、まるで窓の外にまで聞こえるように少々大きな声を上げたものの、二人もまたアラン同様、自分で窓を閉めに行くことはしなかった。


 そんな三人とにこやかな表情のままのココの様子に、ルルにはよく状況が分からなかったけれど、たぶん窓を閉めないほうがいいのかもしれないと判断すると、部屋の奥から羽織るものを取り出して、ココとサマンサに手渡したのだった。


 一方、アランに渾身の力で頭をはたかれたルーカスは、ルルに気づかれないように必至でうめき声を出さないよう痛みを堪えていた。

 けれど、そんな状況の中でルーカスは、うっかり胸にも痛みを感じてしまっていたのだった。


 自分勝手にもほどがあるということは、充分承知している……。

 けれど、アランが手慣れた様子で窓を開けたことに、すっかり森の家の癖も覚るほどルルの側にいて、何かと彼女を支えてきた事実を目の当たりにしてしまったのだ。

 そう頼んだのは自分だったはずなのに、いざそんな光景を目の当たりにすると、そのことに胸が激しく締め付けられた。


 そんな自分のどうしようもない情けなさを、嫌というほど思い知らされてしまった。


 しかし、複雑な思いを抱えながらも、今はアランをはじめライアンや祖母から、ひとまずココの話を聞くことを許してもらった事に感謝するルーカスだった。


 そして、今度こそココが話を始めた。


「まずは、私の故郷について簡単に話しましょう。私達は、主に薬師を生業として生活を営んでおり、村の多くの者が日々、薬草の勉強、調合や栽培の研究に没頭しておりました。リリィはそんな村で生まれ、幼少期を過ごしました」


 初めて知る母の故郷の話を、ルルは食い入るように聞いていた。

 母も父に負けず劣らず薬草の知識があったのは、そういった環境で育ったからなのだろう。


「リリィはまさに天真爛漫といった感じで……。そして、好奇心旺盛でとびっきり元気でもあったので、森を駆けずり回ったりと、少々おてんば過ぎる面もありました。時々、周りの大人達は手を焼いたりもしましたが、それに関係なく彼女はのびのびと育ちました」


 ココは、在りし日のリリィを思った。

 少なくとも自分達は、リリィがそんなふうに育ったように思っていた。

 しかし、子どもながらに非常に聡い子でもあった彼女が、果たして村での暮らしをどう思っていたのか、だからこそリリィは……。


「ただ、そういったところが、後にあんな騒動を引き起こしてしまったのかもしれません……」


 幼少の頃の母の様子を聞いていたが、騒動という言葉に思わずルルの体がぴくりと反応してしまった。

 しかし、ココはそんなルルに対して大丈夫というようにうなづくと、続きを話しはじめた。


「そんなある日、村にロイがやって来ました」



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