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来訪者 1



 ルグミール村に、一人の青年が訪ねてきた。


 青年と言っても、その顔立ちはまだどこか少年らしさも残っており、深い緑の髪の毛と同じ色の瞳、肌は白く、身体もほっそりとしていて、中性的な印象である。

 羽織っていたローブからは独特でありながら、抜けるような爽やかな匂いが、すれ違う者の鼻をくすぐった。


「すみません。ここはルグミール村でしょうか?」


 そんな青年に、村の入口付近で声を掛けられた村人。

 水路事業がはじまり、この村を訪れる者が多くなったが、ほとんど王都から派遣されてきた技術者や指導員ばかりで、しばらく経てば顔見知りくらいにはなっていた。


 ところが、その青年は全く見知らぬ顔だったので、村人はやや訝しげに思いながらも、青年の質問に「そうだ」と答えた。

 しかし、ふいにその青年から香るその匂いに、以前にも嗅いだことがあるけれど何の匂いだったかなと考えていると、青年から意外なことを尋ねられたのだった。


「こちらに、薬師のリリィとロイという者が暮らしていると聞いたのですが、どちらへ行けば会えるでしょうか?」


 その名前に村人は動揺を隠せず、咄嗟に返事をすることが出来なかった。

 しかし、柔和な表情をたたえた青年に悪い印象はなかったので、しばらくして少し複雑な顔をしながらも事実を伝えた。


「ロイとリリィは、その……、4年前に流行病にかかって亡くなりました」

「……っ!」


 その訃報に、青年はしばらく目をみはったあと、故人を悼むように静かに目を伏せた。


「なんと……そうでしたか」


 その様子からあまりにも深い哀悼の念を感じた村人は、ふと青年から漂う匂いが、薬草の香りだと気がつくと、ためらいながらも青年にある少女の存在を知らせた。


「あの……、でも、ルルという娘が一人いますが……」

「娘? 二人には、子どもがいたんですか?」


 思わぬ情報に、弾かれたように顔を上げた青年は、村人に詰め寄るように聞き返したが……。


「ええ……」

「その子は、どこに行けば会えるのでしょうか?」

「そ、それは……」


 少女の存在を教えたものの、この村で起こった騒動で自分達がその娘にどんな仕打ちをしたのか思い返すと、彼女が今どこに住んでいるのか容易に話すことは出来ず、歯切れが悪くなる。

 青年からの追求に困っていると、たまたまそばを通りかかった見知った顔に、助けを求めた。


「ハリィさん! すいません、ちょっと……」


 ハリィは水路事業で王都から派遣されてきた人物で、確かあの警備隊の二人とよく話をしていた姿を、度々見かけていたのを村人は思い出した。


 あの騒動で後ろめたさを抱えている村の者達から話を聞くよりは、事情を知る第三者からの方が、事実をありのままを説明してくれるだろうと、彼なりに考えてのことだった。

 それに、何かと少女を手助けしてきたあの警備隊の人のほうが今の自分達より、よっぽど彼女の様子を知っているはずだとも思ったのだった。


「あの、ルーカスさんの容体は……?」


「ご心配かけてすみません。おかげさまで熱も下がり、普通に会話も出来るようになったので大丈夫だとは思いますが、あとは王都から来るお医者様にもう一度診てもらえれば、安心かと……」


 事故に巻き込まれたことは村中が知っていたので、まず彼の容体を聞き可能なら、ハリィにこの青年をルーカスの元へ案内してもらおうと思ったのだった。


「それなら……。実は、こちらの方がルルについて色々聞きたいことがあるらしくて、ルーカスさんならきっと自分達より詳しい話が出来るはずだと……」


「まだ、目が覚めたばかりですが、本人が了承すれば……」


 ハリィも村の事情は大まかなにではあるが把握していたので、ルーカスの体調面の心配もあったが、自分の判断のみで断ることは出来なかった。


 そうして、ひとまずその青年をルーカスの元へと連れて行くことにしたのだった。



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