大馬鹿者 4
サマンサによる説教は、延々と続いていた。
これまで、良くも悪くも見守ってきた反動なのか、おさまる気配はいっこうになかった。
ただ、今のルーカスには返す言葉など欠片もないため、これまで心配をかけた分、黙ってそれを受け入れていたのであった。
「まったく……。さんざん女を泣かせてきたアランが、ようやっとまともになったかと思ったら、まさか今度は孫が一番大事な娘を泣かせちまうなんて……本当に大馬鹿者だよ。甘やかし過ぎたのかねぇ」
わざとらしくヨヨヨ……と嘆いたサマンサだったが、そんな彼女の言葉にそれまで説教する側に加担していたアランは思わぬとばっちりを受けてしまい、言葉に詰まってしまった。
残念ながら、過去の事とはいえ心あたりがありすぎるアランは、否定することが出来ずにいた……。
すると、それまで場の空気を読んで大人しくしていたアルフレッドだったが、多少聞き飽きていたところに、そんな言葉が飛び込んできたもんだから、思わず口をついて出てしまった。
「アラン兄ちゃんならともかく、もしかしてルーカス兄ちゃん……女の子を泣かせたりしたのか?」
少年が放った素朴なその問いかけが、ルーカスの胸に突き刺さる。
その場にしばし沈黙がおちた。
「待て、少年。その俺のことはともかくとは、どういうことだ……?」
ルーカスは今回の件については弁明の余地もないが、しかし以前はどうあれ、ルルに関してだけは自分なりに真摯に向き合ってきたと、思い込んでいるアランにとっては少々納得がいかないところがあった。
少年の誤解を解くために、アランが聞き返す。
すると……。
「だって、ライアンから色々と……」
少年の言葉にアランが視線だけをライアンに向けると、さっと逸らされた。
「……」
実は、ルーカスが眠っている間にアランもセレナの息子アルフレッドと細やかな交流を築いていたが、そこにライアンも加わってきたものだから、色々偏った目で見られるようになってしまっていたのだった。
これまで子供にはどう思われようが意に介さないアランであったが、相手が大事な友人の息子となると、やはり悪い印象は植え付けたくない、というふうに思っても仕方がなかった。
一緒にいる時はその都度、何だかんだと都合の良いように訂正はしていたが、きっとライアンが性懲りもなく自分がいない所で、アルフレッドに余計な事を吹き込んでいたことを確信する。
「少年、ライアンの話には語弊がある。確かに端からは俺が泣かせたように見えたかもしれないが、実は俺が出会った女性達は、涙を武器にして攻撃を仕掛けてきただけであって、断じて俺が泣かせたわけではないんだ。わかるか?」
アランの力説に、当の少年は意味がよく分からず首を傾げた。
しかし、確かにアランの女性遍歴を振り返ると、あながち間違いではないので……。その場にいた他の面々は、一様に微妙な表情である。
「しかーし、ルーカスのは違うんだ! 俺が出会った歴戦の女性達とは正反対の、可憐で純粋な心優しき女性を、自分勝手な振る舞いで泣かせたのだ!」
しかし、横やりが入らなかったことにすかさずアランは、矛先をルーカスにだけ向けさせたのだった。
「そんなひどいことしたのか、ルーカス兄ちゃん!?」
少年からのほんの少し非難めいた眼差しに、心に大きなダメージを受けたルーカス。
アランの物言いに悪意を感じるものの、しかしながら、ルルのことはまったくもって本当のことなので、何一つ言い訳など出来るはずもなかった。
「じゃあ、ちゃんと『ごめんなさい』して、仲直りしないとな!」
しかし、屈託のない少年のその発言に、掛ける言葉を探していたルーカスはもちろん他の皆も目が覚めるような気持ちであった。
確かに、ルルをこれ以上傷つけないようにと、あれこれ難しく考えてしまっていたのかもしれない。
けれど大切なのは、シンプルだけどそんな素直な気持ちを言葉にすることから、始めるのが何よりなのではないかと思った。
「そうだな。その通りだ! よく言った、少年!」
「本当よ! ルーカスなんかより、よっぽどしっかりしてるわねぇ!」
「うちの孫なんかよりずっと大人じゃないか。セレナの育て方が良かったんだろうね」
散々な言われようのルーカスだったが、本当にその通りで返す言葉もない。
皆から褒められ、少し誇らしげな顔をしているアルフレッド。
セレナもまっすぐな心を持った息子の成長に、目を細めたのだった。




