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忍び寄る危機 4



 ルグミール村にルーカスを連れ帰ると、汚れた服を脱がせ、ひとまずベッドに寝かせるところまでは出来たが、意識はいまだ戻らず、息は荒々しく熱も上がってきている様子だった。


「まずいな……」


 そう呟いたのは、アラン。

 ちゃんと医者に診せてやりたいが、王都に派遣要請をしたとしてもどうにも時間がかかってしまう。それまで、このまま高熱の状態を放おっておくわけにもいかない。


「困ったわねぇ……。アタシがもっとみて、あげられたら……いいんだけど……」


 疲労困憊の様子で、流石のライアンも座り込んだまま立ち上がることが出来ない状態でそう言った。


「いや、これ以上は無理をするな。お前まで何かあったら、ルルが余計悲しむ……。少し休んでくれ」

「アラン……。そうね、そうよね」


 アランのその言葉に、ライアンの申し訳ない気持ちも少し和らいだような気がした。


「でも……、それじゃあ、一体どうするの?」


 そう聞かれたアランは、しばらく考え込んだあと口を開いた。


「ルルの手を借りようと思う」

「え……、まさか、ルルを連れて来るつもり? でも、あの子の体は……」


 ライアンの危惧に、アランはそれは分かっているといったように、手を上げて制した。


「どちらか一方が犠牲になるのは、誰も望んでいない。連れてはこれないが、ルルの出来る範囲で、せめて医者がくるまでの間の症状を少しでも凌げれば……」


 そこで、アランは一度言葉を切り、部屋の片隅でじっとしていたヴィリーの前で、膝をおり目線を合わせてこう言った。


「そのためには、ヴィリー。お前の力を、また借りたい。今すぐにでもルルのそばへ帰りたいだろうが、もう少し堪えてくれないか?」


 真剣な眼差しでそう頼んできたアランに対して、何かを思案するようにヴィリーはひたすら彼を見つめ返していたが、やがて尻尾を大きく振り、了承の意を示したのだった。


 そうして、アランはルーカスの発見時の様子と、今の症状をなるべく詳細に書き綴ったうえで、何か症状をやわらげる処方はないかという旨のメモを、ヴィリーの首に括りつけ、ルルの元へ向かわせたのだった。


「アランも一緒に行ってあげた方が、良かったんじゃないの?」


 ヴィリーを見送ったアランに、そう語りかけたライアン。


「そうしてやりたいが……。ヴィリーだけの方が早く辿り着けるだろう。俺が着いていったらそれだけ時間もかかるし……。それに、俺が不在の間、ルーカスが急変しないとも限らないからな」


 他の誰かに様子を見ててもらうことも考えたが、ジョージは現場で騒動の沈静化と崩落の原因究明にかかりっきりだろうし、その応援にほとんどの者が出払っており、ライアンまでもがこの状態で、あとを任せるとなると……。

 なかなか思い当たる人物がいなかった。


 しかし、そんな時だった……。


「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」


 玄関の外からの訪問の声に、アランはこんな時に何だと思いながらも、ルーカスのそばを少し離れ、対応に向かった。


「すまない。今少し取り込み中で、急ぎでなければまた後に……」

「お忙しい時に、すみません。実は、こちらでルーカスという方が働いていると聞いて……」


 そう言いかけて、しばしの間、お互いを見つめるアランと来訪してきた女性。


「もしかして、アラン……? アランなのね」

「まさか……、セレナか?」


 ルーカスはもちろん、ライアンからも再会した様子を少しは聞いていたが、アランがセレナと再び顔を合わせたのは、これが初めてだった。


「どうして……君が、ここに?」

「私が王都に来た事情は、ルーカスやアランから聞いたと思うけど……」

「ああ……」


 セレナはアランにも手短にある程度の事情を説明すると、ここに来た理由を告げた。


「実はね、そろそろ自分達の街に帰ろうと思って……。でも、ルーカスには息子といっぱい遊んで貰ったし、帰る前に一言お別れを言いに行こうって……。あ、そうだ。ほら、アル。このお兄さんにもごあいさつは? アランもパパのお友達だった人よ」


 そう言ったセレナのスカートの影から、しばらくしてちょこっと覗かせた顔に、流石のアランもこみ上げてくるものがあった。


「そうか……。君が、あのアルフレッドの……そうか」


 しかし、面影のある顔はまたすぐに、母親のスカートの影に隠れてしまった。


「ごめんね。アラン……。この子ちょっと拗ねちゃってて……。それで、ルーカスはいるかしら? せめて、挨拶だけでもと思っているんだけど……」


 今、ここでセレナなのか……。

 アランの脳裏に、一瞬ルルの顔が過ぎった。


 しかし、いまこの状況で、これ以上の適任はいないように思えてならなかった。


「セレナ。来て早々すまないが、少し頼まれてくれないか、ルーカスが……」


 ためらっている時間はなかった。

 今は、借りれる手があるなら何だっていい。


 そうでなければ……。

 セレナを前にして、アランは強くそう思った。


 そして、そのかたわらにいる小さな存在に、そうすることでこれからの全てに繋がるのだと、そう信じたかったのだ。



 アランは、いまこの時をあえてセレナに任せ、ヴィリーの後を追ったのだった。



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