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忍び寄る危機 3



 アランはルグミール村に仮に設けられた執務室で、仕事をしていた。


「きゃぁぁあ―っ!」

「ひぃっー……!」


 すると、建物の外から何やら村人達の悲鳴が聞こえてきたかと思うと、郵便物の管理を任されているハリィが、転がるように部屋に飛び込んできた。


「ア、アランさん。む、村に……突然、オオカミが!」

「っ……!」


 オオカミと聞いて、アランはすぐさま席を立ち外へと向かうと、案の定ヴィリーが村に姿をあらわせていた。

 ひとまずルルの一連の出来事やヴィリーの存在は、村人達全員に伝達済みではあったが、やはり実際にその姿を見ると、恐れおののくのも無理はない。


 ひとまず、アランは驚き惑う村人達に説明をして、その場を落ち着かせた。

 別にヴィリーを受け入れろとまではさすがに思っていないが、早まって害そうとする危険は二度と起こしたくなかった。


 しかし、そんな事を十分理解しているはずのヴィリー、そしてルルだ。

 なぜまだ明るいうちに、しかもヴィリーひとりで……。


「ヴィリー……!? まさか、ルルに何かあったのか?」


 アランがそう訪ねてみたが、ヴィリーの様子を見る限りそういうことでもなさそうだ。しかし、ふとヴィリーの首に何かを括りつけられているのを発見すると、アランはさっと外しルルの伝言に目を通した。


「んーもぅ〜! この忙しい時に一体何の騒ぎよ〜?」


 ちょっとした騒ぎに、ライアンまでもが外に出て来たが、ヴィリーの姿を見つけるとほんの少し顔つきが変わった。


「ど、どうしたのよ? こんなところにヴィリーが……ルルは? まさか、ルルも一緒に来てるの?」


 ルルが森から出ると体調を崩すかもしれない体質だということを知るライアンは、心配気な様子で、咄嗟にあたりを見回したが少女の姿はない。


「ねぇ、何があったのよ? アラン」


 アランはルルからの伝言をライアンにも伝えた。


「ルルがヴィリーに託してまで、知らせるってことは……」

「ああ、見過ごすことは出来ない。今すぐ行くぞ、ヴィリー!」


 すぐに発とうとしたアランを、ライアンは思わず呼び止めた。


「ちょ、ちょっと待ってよぉ! じゃあ、今ルルは森でひとりぼっちってことでしょ? どちらかルルのところに行ったほうが……」


 確かに、アランとてその事が気がかりではあった。

 ルーカスがいるところまでは一人でもいける。それにひきかえ森の家にはヴィリーの案内なしでは辿り着けないので、そのままライアンとともにルルのもとへ行ってもらいたい思いもあるのだが……。


「いや、ライアンもこっちについて来てくれ。もし、ルルの胸騒ぎが当たっていた場合、お前がいてくれた方が助かる」


 正直、ライアンの言う通りにしたいのはやまやまだが、ルルがわざわざそのままヴィリーに近道まで案内させようとしているくらいだから、よっぽどの事だと感じ取っていた。


 本当なら自分が真っ先に駆けつけてやりたい気持ちでいっぱいのはずなのに、それでも同じ事を繰り返さないようルルが考え抜いて下した賢明な判断を、アランは大事にしてやりたかった。


 森の中にいるかぎり、ルルは普通に過ごせるのだからと、自分に言い聞かせてヴィリーと共にルーカスのもとへと向かったのだった。



◇◆◇ 



 ヴィリーの後について茂みを突き進むと、ぱっと視界が開けた。


 正直、ものすごいスピードで道なき道をいくヴィリーについていくのは容易なことではなかったが、そのぶんアランとライアンを、いちはやくルーカスのいる場所へと運んでくれようだった。


 しかし、何やら1カ所に人だかりになっているのが見えた。

 ところが、そこにいきなりヴィリー……オオカミがつっこんで来たものだから、集まっていた人々は声にならない悲鳴を上げ、その場を離れた。


「はぁ、はぁ……。皆、落ち着け。そいつは、前に話したルルの……ヴィリーだ」


 少し遅れて息を切らせながらアランがかろうじてそう説明したが、皆の動揺は激しい。

 しかし、今は詳しく言って聞かせる余裕はなかった。その場で腰を抜かして動けない作業夫に、人だかりの理由を聞く。


「一体、何が、あった……?」

「じ、実は、ルーカスさんが……横穴の崩落に、巻き込まれたとかで……」


 そう聞くや否や、アランを押しのけライアンが水脈の井戸に飛び込むと、束の間、底から「おぉぉぉー」という唸り声が響き渡った。

 そして、間もなくして……。


「ルーカス! しっかりなさいよ! ……ふんぬっ!」


 そんなライアンの声が響いたあと、咳き込むような音がするとすぐさま。


「誰か、引っ張りあげるの手伝ってー!」


 その言葉にアランは迅速に周りの者に指示を飛ばし、ロープを垂らすと自らもそれに加わって、引っ張りあげた。


 そして、やがてずぶ濡れ状態のライアンが、同じく泥水で汚れ、ぐったりとしているルーカスを肩にのせ、這い上がってきた。


「おいっ! ルーカス……大丈夫か、ルーカスっ!」


 ひとまずゴロリと、ルーカスを地面に寝かせる。


「ぜぇー、ぜぇー……。と、とりあえず水は吐かせたから、息はしてるわ……」


 さすがのライアンも力を使い果たしたのかその場に突っ伏したまま、息を切らせながらそう言うのが精一杯の様子だった。

 ライアンは崩落しかかった横穴から、ルーカスを引っぱり出しすぐに呼吸を確認すると、すばやく泥水を吐き出させていたのだった。


「そうか。ライアン……よくやった。お前のおかげで、助かった」


 一瞬、迷ったがライアンを連れて来て正解だった。そして、ルルの言うとおりヴィリーの案内で近道をしなければ、間に合わなかったかもしれない。


 そこへ、知らせを受け血相を変えたジョージが駆けつけてきたので、アランはあとのことを任せると、ライアンにひととおりルーカスの容体を確認してもらい、一刻も早くルグミール村に運んだのだった。



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