もうひとつの愛と遠まわりの愛 5
寝室の外側で、そっとルルの様子をうかがっていたアラン。
ルルの泣き声には胸を締めつけられるような思いだったが、ライアンが実に上手く言い聞かせてくれていて、それをルルも徐々に受け止めて行っている様子にひとまず安堵したのだった。
きっと、ルーカスの祖母という立場のサマンサや、好意を抱いている自分ではできなかった事だと思う。ライアンだからこそ出来た役割だったのかもしれない。
しかし……。
「ねぇ! 隣とはいえ別々のベッドなんて寂しいし、このまま一緒のお布団で寝ちゃおうか?」
――何だと!?
ルルの泣きじゃくっていた声もほとんど聞こえなくなって、しばらくしてふとライアンが良い事を思いついたとばかりに、そう言ったのが寝室の扉越しに聞こえてきた。
「で、でも、狭いからライアン様が風邪引いちゃうかも……」
――ルル!? そういう問題じゃない!
心は乙女でも、見た目は立派な男性であるライアン。
限りなくゼロに近いが、ルルの可愛さを前に目覚めてしまう可能性が全くないとは言い切れない。間違いが起こってからでは遅いのだ。
しかし、ここで自分が介入すれば、盗み聞きしていたことがバレてしまう。
それについてルルが怒るということはないと思うが、問題はそこではない。今自分が顔を見せてしまうと、きっと彼女に何かと気を遣わせてしまうだろう。
そんなふうにルルを思い遣り、あれこれ思い悩むアランだったが、その間にもルルとライアンの話はずんどこ進んでいく。
「あら、大丈夫よ! こうやって、簡易ベッドを繋げて布団を敷き詰めれば……」
「わぁ、広いベッドみたいですごいです。これなら一緒でも大丈夫ですね」
――はぁ!? 大丈夫なものか! 簡単に、受け入れてどうするんだ、ルル! そいつはオオカミの皮を被った羊とは言え、こうもっと危機感をだな……。
寝室からガタゴトと少々大きな音がしたあと、ちょっぴり弾んだような声を上げたルルにアランは思わず、少女に異性に対する警戒心について、今一度言い聞かせたいという思いに駆られてしまった。
そして、ついに……。
「ラ、ライアン様。そんなにくっつかれたら、ちょっぴり苦しいです」
「ふふ、こんなに可愛いんだもの。ぎゅっとしたくなるじゃない」
そんなやりとりに、ついにアランの我慢も限界にきてしまった。
ルルの事を頼むとは言ったが、そこまでしていいとは言っていない。思わず寝室のドアノブに手をかけたアランだったが、その瞬間……。
――カプッ!
「ッ……!」
ふくらはぎに衝撃が走る。
振り返るといつの間にか、ヴィリーが忍び寄ってきてアランの足を甘噛みしたのだった。そう、ヴィリーにとっては、あくまでも甘噛みである。
痛みに悶絶するアランをよそに、ヴィリーは扉の前でひとつ吠えると中からルルが「おいで」と声を掛けられると、器用に扉を開けて律儀にパタンと閉めた。
「あらぁ、てっきりアランが邪魔しに来るかと思ったけれど、ヴィリーだったのね。でも、あまり乙女の会話に首をつっこむのは良くないわよ」
部屋に入ってきたヴィリーに言ったように見せかけて、ライアンは今までの様子を伺っていたであろうアランに向けてそう言ったのだが、ルルから予想外の答えが返ってきた。
「ライアン様、ヴィリーだって女の子なんですよ」
「えぇ!? そうなの?」
――えぇ!? そうだったのか!
外で痛みに悶えていたアランも、その事実には思わず驚いてしまった。
「はい。だから、ヴィリーも一緒に寝ていいですか?」
「もちろんよ! じゃあ、今夜は女の子同士仲良くしましょ!」
色々納得がいかない事もたくさんあったが、ひとまずヴィリーがいる限り心配するような事は起こらないだろうと、アランは渋々と介入を諦めたのだった。