もうひとつの愛と遠まわりの愛 3
「本当に、いいの? アラン」
その日の夜。
目を覚ましたばかりのルルを気遣い、サマンサが料理の腕をふるってくれた。
正直、サマンサとライアンがここに泊まると言い出した時は、どうなることやらと思っていたが、思いの外なごやかな夕食となり、アランはひとまず胸をなでおろしたのだった。
その後、後片付けを一緒に手伝ってくれていたライアンから、おもむろにそう問いかけられた。
ちなみにルルも、せめて後片付けを手伝いたいと申し出たものの、アランが寝室へと強制的に連れて行き、すでにベッドへと寝かしつけていた。
「いいわけあるか! なぜ、お前がルルと同じ部屋で寝ることになってんだ?」
ライアンが持ち込んだ簡易式ベッドのおかげで、3人共森の家で寝るのに問題はなくなったが、いかんせん家の中は狭く誰がどのように寝るかで揉めていた。
アランは即座に、ライアンが外で寝れば問題解決と言った。もちろん冗談だったが、それを真に受けてしまったルルが自分の寝室の空いたスペースに、ひとりどうかと申し出てしまったのだ。
普通に考えれば、サマンサが妥当なのだが……。
ある事情により、なんとライアンが選ばれたのだった。
アランがあえてそれには触れようとせず、不服そうな表情をわざと作り普段と変わらない態度を装っていたが、ライアンは珍しく真面目に語りかけたのだ。
「その事じゃないわよ。……この手紙のことよ。本当にこれをルルに渡しちゃっていいの?」
「……良いも悪いも、きっとルルはどんな言葉でも、それを待ち望んでいるはずだ」
実はライアンは、森へ行く前にルーカスからの手紙を預かっていたのだった。
本当は、アランがルルを連れて森へ帰ろうとした時に、ライアンも一緒についていくつもりだった。今回の一連の出来事にさすがにアランも精神的にまいっている様子だったので、一人でルルを森まで連れて帰るのは、何かと大変だろうと心配していたのだ。
けれど、アランに殴られたルーカスも放おってはおけなかった。
何だかんだとこれまで腐れ縁だった二人の仲違いに、どうするべきか決めかねていた。ライアンにとっては、ルーカスもまた大切な友人であることに変わりはなかったからだ。
しかしそんなふうに迷っていたライアンへ、先程顔も見たくないと言い放ったばかりのアランから意外な言葉をかけられたのだ。
「俺は、大丈夫だ。ほんの少しでいい。今はアイツについててやってくれ」と。
その言葉にひとまず従おうとライアンは、ルーカスのあとを追ったのだった。
そして、ルーカスを捕まえると傷の手当のためサマンサの店へと連れて行った。
そこには留守にしていたサマンサも丁度戻ってきていて、孫の怪我に驚きつつも何か察したのか、ひとまず黙って薬を出してくれたのだった。
正直、以前のルーカスなら上手いこと話をはぐらかして煙に巻いていたのだろうが、今回はやけに素直にライアンの言葉に従い、やがてこちらが尋ねる前に、自らぽつりぽつりと事情を語り始めたのだ。
ルーカスのその変化については、単純に嬉しいことでもあったが……。
そしてルーカスは話し終えたあと、おもむろに1通の手紙を書くと、それをライアンに託したのだった。
「これを渡すかどうかは、ライアンの判断に任せる」
正直、ルーカスが語ったことは、ライアンもサマンサも分からないでもなかった。
けれど、ルーカス自身は答えを探すと言いながらも、周りから見た限りではもう答えはすでに見えているように思える。
この手紙こそがその証拠でもあり、だからこそライアンにはルーカスが遠回りをしているようにしか見えず、もどかしい気持ちでたまらなかった……。
それは、サマンサも同じ気持ちだったのだろう。思わず開きかけた口を、けれど思い直したのか結局何も言うことはなかった。
こればっかりは周りがなんと言おうと、自分が納得しない限り難しいことなのかもしれないと思ったのだろう。
でも……。
「ずるいわよねぇ。こんなの読んだら、辛くてもきっとルルは……」
「ああ……」
「アタシはね、単純にルルがわざわざ傷つかなくても、幸せになれる道があるなら、そっちのほうがいいなとも思ってるのよ」
そう、遠回りの道を選んだのはルーカスであって、ルルがこれ以上傷ついてまでそれに付き合う必要はどこにもないとも思うのだ。
それでも、これを読んでしまえば、ルルも同じように遠回りを選んでしまうかもしれない。誰の泣く姿も見たくないライアンにとっても、複雑な気持ちであった。
「言ったはずだ。ルルが誰を想おうと、俺がルルを愛することに変わりはないのだと」
「そう……」
正直ライアンは、この手紙を見せずに、このまま自然にルルがアランと過ごす時間が増えれば……と考えなくもなかった。だから、ライアンは手紙の件をアランに相談したのだが、意外にも反対されなかった。
きっと、アランも本当のところでは分かっているのだろう……。
それでも、心配は尽きないのだ。
「ライアン。その手紙をルルが読んで……その時は、頼むぞ」
「……ええ、もちろんよ」
きっと、二人は同じ想像をしたのだろう。
ルルがその手紙を読んで、どんな顔をするのか……。




